絵本のいいところは、何かとプレゼントに使えるところです。
誕生日やクリスマスなどのイベントはもちろん、ちょっとした手みやげにも使いやすいのが絵本です。
本をプレゼントする行為自体、ほっこりするなあと思いますが、絵本は視覚的にも華やかだったりするので、喜ばれやすいという利点があります。
きれいな花やかわいい雑貨を贈るような感覚に近いでしょうか。
今回の記事では、だれかに贈りたくなるすてきな絵本を厳選してみました。
- 1 「夜のおたんじょう会へ」きたに よしこ ツキ
- 2 「いっしょに いてね」ポリーヌ・ドゥラブロワ=アラール / 文 Hifumiyo / 絵 山口 羊子 / 訳 ポプラ社
- 3 「おなかがへった」マメイケダ WAVE出版
- 4 「ぼくのふとんはうみでできている」ミロコマチコ あかね書房
- 5 「の」junaida 福音館書店
- 6 「ここは」最果 タヒ / 文 及川 賢治 / 絵 河出書房新社
- 7 「ジャイアント・ジャム・サンド」ジョン・ヴァーノン・ロード / 作 安西 徹雄 / 訳 アリス館
- 8 「ぼくとたいようのふね」nakaban BL出版
- 9 「かわ」鈴木のりたけ 幻冬舎
- 10 「みちとなつ」杉田 比呂美 福音館書店
- 11 「もりのおくのおちゃかいへ」みやこし あきこ 偕成社
- 12 「あおのじかん」イザベル・シムレール 石津 ちひろ / 訳 岩波書店
- 13 「うそ」谷川 俊太郎 / 詩 中山 信一 / 絵 主婦の友社
- 14 「こどもってね……」ベアトリーチェ・アレマーニャ みやがわ えりこ / 訳 きじとら出版
- 15 「セミ」ショーン・タン 岸本 佐知子 / 訳 河出書房新社
- 16 「くるみのなかには」たかお ゆうこ 講談社
- 17 「しーっ!ひみつのさくせん」クリス・ホートン 木坂 涼 / 訳 BL出版
- 18 「キツネと星」コラリー・ビックフォード=スミス スミス幸子 / 訳 アノニマ・スタジオ
- 19 「アリィはおとどけやさん」大久保 雨咲 / 作 吉田 尚令 / 絵 ひさかたチャイルド
- 20 「おひさま わらった」きくち ちき フレーベル館
「夜のおたんじょう会へ」きたに よしこ ツキ
【ざっくりまとめると】
女の子の「あたんちゃん」は、特製のぼうしケーキをかぶり、プレゼントを持って、遠くのお屋敷へ。
お屋敷にはたくさんの「たましい」が住んでいて、今夜はみんなの誕生会。
あたんちゃんが用意したプレゼントは、たくさんの種類のおいしそうなぼうしケーキ。
たましいたちとの誕生会は夜明けまで続き・・・。
【見どころ】
水墨画+ヨーロッパ
【ジャンル】
ゴーストハウス
かぶってよし、食べてよし
古いフィルムの映像をみるような、あるいはカラーの水墨画をみるような雰囲気がある。
とてもやさしいタッチと、あたたかい色合いの絵がなごむ。
谷をこえ、丘をこえ、「たましい」が住んでいるお屋敷にむかうというストーリーなのだけど、彼岸の意味がこめられてるのは間違いなさそう。
表紙のあたんちゃんが指さすむこうに、あたんちゃんの会いたいけど会えない人がいるのだろう。
たましいたちはやさしく出迎えてくれる。
あたんちゃんとたましいたちは親密な時間をすごすけど、住む場所がちがうようだ。
あたんちゃんや犬のモモにはハートが浮きあがっている。
生きているとは、ハートを持つこと、ということなのかも。
「いっしょに いてね」ポリーヌ・ドゥラブロワ=アラール / 文 Hifumiyo / 絵 山口 羊子 / 訳 ポプラ社
【ざっくりまとめると】
ママと娘サラのなんでもない一日。
7時に起きてベッドでじゃれあい、トーストの朝ごはんを食べて、ママは会社へ、サラは幼稚園へ。
夕方に合流するとパン屋でお買い物し、お風呂と夕ごはんを済ませたら、夜の時間。
【見どころ】
絵になる暮らし
【ジャンル】
リレー絵本
二人でひとつの一日
作者のポリーヌはパリの司書教諭。
それらしき職場の風景も見られ、作者の実体験なのかもしれない。
だから生活感があって、親子の何気ない一日も嘘っぽさがなくていい。
フランスを拠点とする日本人のイラストレーター、Hifumiyoの絵がすごく美しくて、何事もない平和な日のありがたみがわかる。
そして、描かれるのはシングルマザーの一日でもある。
ワンオペ育児は大変にちがいないが、マイナス面はいっさい出てこない。
母娘がとても自然に互いを思いやって生活してることが、それぞれの視点から同時進行で描かれるので、わかりやすく伝わってくる。
フランスのシングルマザーの数は、日本の2倍ほど。
日本とおなじように、経済的に苦しい人たちも多いというが、シングルマザーに対するネガティブイメージはないし、法律や社会保障によるサポートもしっかりしている。
これはフランスならではの絵本かもしれない。
明るくマイペースに生活してる様子が、幸せがどういうものかを教えてくれる。
「おなかがへった」マメイケダ WAVE出版
【ざっくりまとめると】
4人家族の末っ子の「ぼく」は食べるのが好き。朝ごはん、ハイキング、給食、外食、海の家、おばあちゃん家、お母さんの誕生日と、おいしいシチュエーションのハイライト。
【見どころ】
実物より大きな迫力たっぷりのごはんたち
【ジャンル】
ごちそうセレクション
はらぺこアルバム
マメイケダは1992年生まれの作家さんで、食べものをおいしそうに描く。
たとえば朝ごはんの味噌汁や半熟の目玉焼きなんて、本物みたいに食欲を誘う。
そして、わりと普通の食べものまでが、なぜかおしゃれにみえる。
絵のフードスタイリストみたい。
仕事の経歴をみると、雑誌のイラストやパンの包装紙、ピザの箱のパッケージから、エッセイ本の表紙まで、ぜんぶすごくいい感じ。
おいしそうなだけじゃなくて、パッと人の目を引きつける華やかさがある。
この絵本に出てくる料理はもちろんどれもたまらなくおいしそうなのだけど、おはぎをこんなに魅惑的に描くのは難しいんじゃないかと思う。
お皿のデザインとテーブルの色がまた、引き立て役として憎いくらいばっちり。
「ぼくのふとんはうみでできている」ミロコマチコ あかね書房
【ざっくりまとめると】
海のふとん、猫のふとん、パンのふとん、森のふとんで眠る「ぼく」。
【見どころ】
6頭のネコでできた温かそうなふかふかふとん
【ジャンル】
アニマルドリーマー
安眠? それとも悪夢?
「ぼくのふとんはうみでできている」でいきなり始まるのだけど、海のふとんっていう発想がまず素敵。
波の音がするふとんをかぶって、「ぼく」は猫と寝ている。
ザーン、ザーンという音がリラックスできてよく眠れそうではあるけど、海は穏やかばかりが海じゃない。
深くて広いのが海。海のふとんで寝るのも大変そうだ。
それにしても、ミロコマチコが描く生き物の絵は、目が強い。目力がある。
主人公の少年の「ぼく」も、ミロコマチコの生き物の目をしている。
猫やゾウとおなじ目を持ってるなんて、ちょっとうらやましい。
「の」junaida 福音館書店
【ざっくりまとめると】
日本語の助詞「の」でつながる、画家junaidaによる40枚の絵。
【見どころ】
奇想天外な世界観
【ジャンル】
連想ファンタジー
絵の短編集
助詞「の」は使い道がたくさんで、言葉をやわらかくする働きもあるから、好きだ。
この絵本のように、延々と次の言葉につなげていくこともできる。
日本語が多少崩れようとも、ちゃんと意味を通すことが可能なところもいい。
「の」によって40枚の絵がつながるのだけど、連想は自由でやや強引なので、一枚一枚はわりと独立している。
いくつもの物語があって、想像力をかきたてられる。
たとえば、冒頭のほうに出てくる「ポケットの中のお城の」では、女の子の赤いコートのポケットにお城が入ってる。
すべてのページがそんな具合に、詩人がやるような表現の飛躍をくりかえして、切れ切れのファンタジーを作りあげてる感じだ。
詩人とちがって、絵で飛躍してるのがおもしろい。
「ここは」最果 タヒ / 文 及川 賢治 / 絵 河出書房新社
【ざっくりまとめると】
少年が今いるのはお母さんのひざの上。ここは町の真ん中でもあり、公園の近くでもあり、空の下でもあり、山のふもとでもあり・・・。
【見どころ】
自由なアングル移動
【ジャンル】
壮大モノローグ
ポップなポエム絵本
主人公の「ぼく」の位置は最後まで変わらず、アングルがあちこち飛びまわる。
お母さんのひざの上で、ものすごくあたりまえのことを語っていく。
あたりまえだけど、見逃しがちな真実中の真実といったところ。
今いる場所のことについて語る、いく通りもの表現は、最果タヒらしい独特の言葉づかいだ。
谷川俊太郎にも通ずるところがあり、いい詩人だなと思う。
そして、彼女の詩につけられた及川賢治の絵もいい。
海外と日本の町が合わさったような、なんとも不思議な町で、ちょっとおかしなサイズ感の人物たちが生活してる。
キューバみたいな雰囲気もある。
時代も古いような新しいような、どちらとも言えない感じがおもしろい。
日本の近未来だったりして。
「ジャイアント・ジャム・サンド」ジョン・ヴァーノン・ロード / 作 安西 徹雄 / 訳 アリス館
【ざっくりまとめると】
村に400万匹ものハチの大群がやってきた。困った村人たちが考え出したのは、大きなパンにイチゴジャムを塗っておびきよせ、もう一枚のパンで一気にサンドしてしまうという奇策。さっそくアパートみたいに大きなパンを焼き、いざジャムサンドの罠づくり。
【見どころ】
何台もの車やトラクターで運ばれる巨大な食パン
【ジャンル】
蜂パニック
ジャム・ハチ・サンド
ハチの大群は想像しただけでもおそろしい。
400万匹のハチの羽音は、もはやブーンではなく、空でウワンウワン轟くにちがいない。
ヒッチコックなら、パニック映画「鳥」みたいに、ハチの群れに容赦なく人間を襲わせるところだろう。
でも、もちろんこの絵本は早い段階でそういう路線を回避。
パン屋のおじさんがジャイアント・ジャム・サンドを作って罠にしてはどうかと言い出し、そんなはちゃめちゃな提案が熱烈に歓迎される。
現実にはありえない巨大な料理って、妙に食欲を誘うところがある。
町中のイチゴジャムをかき集めて、ジャムサンドを作る工程も楽しい。
1976年出版のこの絵本、時代を感じさせる絵のタッチがすごく落ち着く。
ヨーロッパの町並みや田園風景の、カラフルでやさしい色づかい。
とてもかわいい絵本だと思う。
「ぼくとたいようのふね」nakaban BL出版
【ざっくりまとめると】
夜、眠れない「ぼく」は船の模型を持って小川に行く。ミニチュアサイズになった「ぼく」が船をあやつり、長い船旅へ。
【見どころ】
まばゆい朝日に包まれた船
【ジャンル】
妄想ジャーニー
船乗り志望
おもちゃの乗り物を運転して旅に出る、という妄想は、子供なら一度はやるんじゃないかと思う。
おもちゃに感情移入して、何時間でも遊んでる。
そんな子供の夢を叶えてくれるのは、ドラえもんくらいなものだが、こういう話は絵本の得意分野でもある。
絵本なら、このアイディアをどんなふうにでもおもしろおかしくできそうだけど、nakabanはあくまで表現方法に力をそそぐ。
光の表現にこだわる画家だと思う。
この絵本では、月明かりを反射する川、夜明けのかすかな明るみ、朝日の中の船、朝の川のきらめきなど、光の画家の本領をいっぱい堪能できる。
どのページも絵画のような出来栄えだから、ページ順に読まなくても、好きなページをひらいて絵を眺めるという楽しみ方もできると思う。
「かわ」鈴木のりたけ 幻冬舎
【ざっくりまとめると】
源流、渓流、上流、中流、里川、湖、池、沼、用水路、田んぼ、下流、河口、それぞれの環境で生きる、魚や昆虫や貝など多様な生物の暮らしぶり。
【見どころ】
水中から見た世界
【ジャンル】
淡水ライフ
天然水族館
この角度から川を見ることなんてまずない、という場面の連続だ。
そういう意味で、すごくチャレンジングな絵本だと思う。
水中が主役なので、陸上はヘッダーみたいに小さい扱い。
ヒトの生活圏がちっちゃく見えてるのがおもしろく、水中と陸上のまったく異質な営みが比較できる。
一口に川といっても、上流から下流にいたるまで、いろんな形態の川があり、棲んでる生きものもちがう。
カブトガニみたいに泥が豊富な限られた環境で生きるものもいれば、サクラマスのように産卵のために海から上流まで移動する魚もいる。
地上とおなじように、水中の世界もけっこう慌ただしい。
それに、天敵や釣り針や天候などの危険も多い。
この絵本のページをじっと眺めてると、本物の川みたいに癒される。
遊び心がつまった鈴木のりたけの絵本どんな絵本作家さん?濃厚な色づかいで、ダイナミックな絵を描くのが特徴です。内容はシュールだったり、おふざけだったり、ユーモアたっぷりだったり、作品によって、それ[…]
「みちとなつ」杉田 比呂美 福音館書店
【ざっくりまとめると】
大きな街に住んでる「みち」と、小さな町に住んでる「なつ」。
みちの宝物はあちこちで拾ったハート型の石で、なつの宝物は砂浜で拾ったまるいガラスのかけら。
夏休みに、みちはおじいちゃんとおばあちゃんの家にしばらく泊まることになった。
そこは、なつが住んでいる小さな町。
ある朝、みちが海辺でハート型の石のコレクションを広げていると、なつが通りかかり・・・。
【見どころ】
都会暮らしと田舎暮らし
【ジャンル】
ガール・ミーツ・ガール
友だちができるまで
都会育ちのもの静かな女の子「みち」と、田舎育ちで活発な女の子「なつ」が出会うまでを描く。
表紙だけ見ると「なつ」が男の子にみえるので、小さな恋の話かと思うが、そうではなくて、性格のちがう女の子たちの話だ。
杉田比呂美の絵の特徴は、いい意味で躍動感がないところ。
人の動きは少々ぎこちないし、建物や家具などはきれいな直線で描いてあるし、物の配置も妙に揃っている。
全体的にぎこちないけど、どのページも構図がすごく美しい。
遠くからとらえた絵が多く、余白もたっぷり。
こういう絵が好きな人には、たまらない絵本だと思う。
そして「みち」の都会暮らしと「なつ」の田舎暮らしを交互にみせながら、ふたりの少女をゆっくりと近づけていく、ゆるーいストーリーもいい。
ふたりがずいぶん違うタイプの女の子だというのは、最初のページに描かれた、ふたりの靴がよく物語っている。
「もりのおくのおちゃかいへ」みやこし あきこ 偕成社
【ざっくりまとめると】
お父さんがおばあちゃんの家に持っていくはずのケーキを忘れ、気がついたキッコちゃんが届けにいくことになった。
ところが森で迷ってしまい、ひつじに声をかけられて動物たちのお茶会に参加することに。
森でこけたときに潰れてしまったケーキの代わりに、動物のみんなが木の実や果物のケーキを分けてくれる。
【見どころ】
インスタ映えしそうな、おいしそうなケーキ
【ジャンル】
アニマル・ティー・パーティー
動物たちのおもてなし
お父さんと思って追いかけたら、お父さんじゃなかった、という迷子の話でもある。
こどもはあっという間に迷子になる。
たいていは近辺を探せば、すぐ親に合流できるものだけど、こういう短時間の迷子なら、わりとよくある。
僕もこどものとき、東京を観光しているときに、ひとりだけ道を間違えて置いていかれそうになり、かなり焦った記憶がいまだにある。
迷子になったとき、この絵本のように、動物たちが声をかけてお茶会に誘ってくれたら、こどもはすごく安心だろう。
お茶会じゃなくても、動物たちが親切にあたたかく迎えてくれるといい。
動物たちが大勢で親のいるところまで送ってくれたら、とても心強い。
迷子のこどもたちが、現実でもこういう安心を見つけてほしいと願うばかりだ。
「あおのじかん」イザベル・シムレール 石津 ちひろ / 訳 岩波書店
【ざっくりまとめると】
太陽が沈んでから夜になるまでの「あおのじかん」を描く。
アオカケス、コバルトヤドクガエル、アオガラ、イワシ、フサホロホロチョウ、モルフォチョウ、ルリツグミ、スミレサギ、ブルーモンキーなど、青く染まった生き物たち。
【見どころ】
いろんな青色で描かれた動物や自然
【ジャンル】
ネイチャー絵本
一日でいちばん美しい時間
太陽が沈んだあと暗くなるまでの時間は、都会でも、見とれるほどきれいな空をみせることがある。
この「あおのじかん」は、オーロラとか流れ星のように出会うのが難しいわけじゃないけど、数分から数十分と時間は短い。
ほんとにきれいな空だから、「あおのじかん」を意識して、わざわざ見る時間を作ってもいいくらいなのだが、いそがしいとなかなかそうもいかない。
たいして忙しくなくても、現代人は空を見るのに時間を使わなくなっている。
ごくたまに偶然出会って、感動しながら、この「あおのじかん」は好きだなあと実感するのだけど、次回はまたしても偶然頼みだ。
この絵本は、いろんな青が使われていて、青色好きにはたまらないかも。
見返しのところには、たくさんの青色の紹介もある。
「運動会の空の色」とか「ウサギのしっぽ色」とか「晴れ晴れとした心の色」とか「夢の色」とか。
いろんな青があるものだ。
「うそ」谷川 俊太郎 / 詩 中山 信一 / 絵 主婦の友社
【ざっくりまとめると】
谷川俊太郎が1988年に発表した詩「うそ」に、中山信一が絵をつけた絵本。
少年が犬を散歩させながら、嘘をつくという行為を肯定していく。
【見どころ】
ぽっちゃり太めの少年と犬
【ジャンル】
ポエム絵本
いらない嘘と、必要な嘘
この絵本の少年は、嘘をつくなと、母親から小言を言われたらしい。
どんな嘘をついたかはわからないけど、少年にとっては、軽々しくついた嘘ではなく、もっと真剣な、ほんとうのことを言うための嘘だったようだ。
しょせん子供のつく嘘なんて、という考えが大人にはあるかもしれない。
だから、どんな嘘もひとまとめにして、悪い嘘だと決めつけてしまいがち。
でも大人は、いろんな場面で嘘が必要なことをよーく知っている。
むしろ嘘をつかないといけないシーンは、正直言って山ほどある。
相手を傷つけないための嘘なら、ほとんどの人が抵抗がないと思う。
それなのに、嘘という言葉には悪いイメージがついていて、子供がつこうものなら、こっぴどく叱られる。
たしかに、子供はよけいな嘘が多いかもしれないが、大人の社会の練習をしていると思えば、多少の嘘はそれほど悪いことじゃない。
「いぬだって もし くちがきけたら うそをつくんじゃないかしら」
まったく、そう思う。
「こどもってね……」ベアトリーチェ・アレマーニャ みやがわ えりこ / 訳 きじとら出版
【ざっくりまとめると】
こどもって、短いあいだ小さい人、早く大きくなりたい人、頭の中がわくわくだらけの人、へんてこなものが好きな人、聞こえるように大きな声で泣く人。こどもって・・・。
【見どころ】
こどもらしさいっぱいの絵
【ジャンル】
ポートレイト in キッズ
こどもと大人
こどもが主役だけど、どちらかというと、大人目線の絵本かもしれない。
大人にこそ響きそうという意味で。
「こどもってね、みんな いつか おとなになる ちいさなひと。」
どんな大人もこども時代がある。
でも、社会人をみても、どんなこどもだったか想像しにくい人ばかり。
ほんとに、この人にもこども時代があったのだろうか、なんて思うことも。
おなじ人物でも、大人になったその人と、こどもだったその人は別人だ。
別人だとみたほうが正確なことが多い。おなじ人物だと思うから、間違えることがある。
ほとんどの細胞は数年できれいに入れ替わる、という話はわりと有名。
そういう意味でいうと、過去に関わりのあった、あの人もその人もどの人も、もう存在しないということになる。
別人になるたび、人との関係も変わっていく。
自分のことで考えてみても、数年前の自分と今の自分じゃ全然ちがう。
まれに、変わらない関係もある。
よくよく考えれば、それってすごいことだと思う。
「こどもってね、ちいさな ひと。でも、ちいさいのは すこしのあいだ。」
あっという間に大きくなり、二度と戻れないからこそ、大事なこども時代。
「セミ」ショーン・タン 岸本 佐知子 / 訳 河出書房新社
【ざっくりまとめると】
高いビルで働いているサラリーマンのセミ。17年間コツコツ働いてきたが感謝されず、昇進もない。
家賃も払えずに、会社の壁のすきまで生活するセミ。定年を迎えた日は送別会もなく、セミは一人でビルの屋上に行き・・・。
【見どころ】
羽化するサラリーマン
【ジャンル】
セミとニンゲンの一生
長い地中生活
明らかにサラリーマンを風刺した物語。
海外のビジネスパーソンじゃなく、日本の「サラリーマン」がぴったり。
※実際のところ、作者のショーン・タンは日本のサラリーマンのことが念頭にあったらしい。
ちなみに、サラリーマンは和製英語だけど、最近は海外でも使われることが多い。長時間働いてる人という、ネガティブなイメージで。
セミが働いた17年間は、セミの地中生活にたとえられている。
地中生活の期間は、セミの種類によってちがうらしいけど、ともかくセミの一生のうち、地中生活は地上生活の何倍も長い。
17年間という長くて暗い暗黒時代。
実際、絵本ではセミのサラリーマン生活は一見、悲惨なものだ。差別やいじめ、悪意ある不当な扱いだらけ。
とはいえ、セミはどこかニンゲンとはちがう次元で物事をみているようでもある。
長い地中生活と、たった一週間ほどの地上生活を送るセミを、みじめと決めつけるのは人間の視点でしかない。
セミが地中生活をどうみているか、人間には想像もできないだろう。
毎ページに出てくる「トゥク トゥク トゥク!」というセミのつぶやきは、どこか笑い声にも似ている。
「くるみのなかには」たかお ゆうこ 講談社
【ざっくりまとめると】
くるみの中にあるもの。いい音がしたら、小さな宝物。リスが隠したものなら、リスの裁縫箱。小さなドアがついてたら? カラーン、カラーンとかすかな音が聞こえたら? しっとりと重かったら?
【見どころ】
くるみの中のミニチュア
【ジャンル】
くるみ版ボトルシップ
なぜ、くるみに?
くるみは何かと使い勝手がいいのか、小さな宝物や裁縫箱をしまうケースにもなるし、小さなおじいさんとおばあさんの家にもなる。
軽くてころころ転がるから、そういうものの使い道として不向きだと思うが、くるみはきわめて絵本向きと言えるようなところがある。
素朴で、ナチュラルな感じで、ほどよく洋風で、「くるみ」という音の響きがよくて、こどもの世界観にも合う。
そんなくるみの中に、意外で素敵なものが入っていれば、使い道として不向きかどうかなんて問題じゃなくなる。
「くるみのなかには なにがある?」と聞かれて、まさか町がひとつ入ってるとはだれも思わない。
答えのページをめくる前に、音とか状況とか重さとかのヒントがあるのだけど、こどもならもっと突拍子もない回答を出してくるかも。
「しーっ!ひみつのさくせん」クリス・ホートン 木坂 涼 / 訳 BL出版
【ざっくりまとめると】
夜、虫とりあみを持った怪しげな4人組が、鳥を捕獲しようと、秘密の作戦をくりひろげるが、なかなかうまくいかない。ついに鳥たちを怒らせてしまい・・・。
【見どころ】
印象に残るキャラクターたち
【ジャンル】
西洋版ドリフ
全員集合
おっちょこちょいの4人組が、鳥を捕まえようとしては失敗。
西洋版ドリフとでも言えそうなベタなコント。
ベタだけど、絵が洗練されていて、青が基調の世界がおしゃれで美しい。
2頭身のキャラが奮闘するさまは、ピクサーのアニメやミニオンズを思い起こさせる。アニメーション化に向いてそうな絵だ
ところで、この4人組がそもそも鳥を狙う理由はとくに書かれてない。
食べるためというより、カブトムシやクワガタムシを捕るのと同じなのだろう。
要するに、遊びなのだ。遊びだから、鳥の反撃が何よりのエンターテイメント。
「キツネと星」コラリー・ビックフォード=スミス スミス幸子 / 訳 アノニマ・スタジオ
【ざっくりまとめると】
森に住んでいる怖がりで小さなキツネ。けれどもひとつの星がいつもいっしょで、森の中を照らしてくれるから、食料も探せるし、危険も察知できる。ところが、ある夜、星がいなくなり、キツネは心細くて外に出られなくなった。通りかかったコガネ虫の大群でお腹を満たすと、星を探しに出かけることにした。ウサギや木にたずねてみても、答えてくれない。原っぱで疲れて眠っていると、雨が降ってきて・・・。
【見どころ】
ウィリアム・モリスのような美しいデザイン
【ジャンル】
アート絵本
キツネと星とイバラとコガネ虫と森
布張りで、装幀が美しい絵本なので、本屋で見かけたら手に取らずにはいられないと思う。
おそらくあえて色を少なくし、赤やオレンジで星のあかりを鮮やかに表現している。
クラシックなデザインなのだけど、フォントなどのためか、やはりどこか現代的。
作者のコラリー・ビックフォード=スミスが、この絵本を作るにあたって影響を受けたのは、ウィリアム・モリスとウィリアム・ブレイクらしい。
言われてみれば、たしかに強い影響を感じる。
この巨匠たちの仕事をうまく吸収して、独自の美しい絵本を作りあげているのがすごい。
デザインもすばらしいけど、詩のようなお話のほうも負けてない。
友だちである「星」を探しまわるキツネが、雨に「星」のことをたずねようとするシーンが好きだ。
「雨つぶは、空で星をみたかもしれません。雨にはどうやってはなしかければいいのかな・・・」
ページをめくると、赤く表現されたキツネのアップ。
最初はデザインばかりに目がいっていたが、このシーンにさしかかった頃には、すっかりお話に引き込まれていた。
ただのデザイン重視のおしゃれ絵本じゃない。
「アリィはおとどけやさん」大久保 雨咲 / 作 吉田 尚令 / 絵 ひさかたチャイルド
【ざっくりまとめると】
配達屋の「アリィのおとどけやさん」は大繁盛。イモムシのイモムーはお店に遊びにいくが、アリィが忙しくて、なかなか遊んでもらえない。ある日、友だちの姪っ子の誕生日に、花を選んでいると、生まれてはじめてぼーっとした。アリィは花を友だちの姪っ子に届けると、帰りにイモムーに会いにいった。イモムーはそろそろサナギになって長い眠りにつく頃で、その前にアリィと遊んでおきたかったのだった。
【見どころ】
二足歩行の昆虫たち
【ジャンル】
虫の青春
ワーカホリックなアリの配達屋さん
アリは働き者で、イモムシはサナギになってチョウになる。その2点をかけあわせてできた、虫たちの青春のお話。
お話の終盤、アリのアリィは生まれてはじめてぼーっとする。たしかに、アリはずっと動き続け、働き続けているイメージだ。目にするアリはだいたい動いている。
実際のところは、アリだってちゃんと休憩してるらしい。冬眠するアリもいる。
もし巨人がいたら、巨人の目には、人間もいつも動き続けているように映ったかもしれない。
仕方なしに、思いがけず、生まれてはじめてぼーっとするアリィ。それはアリィにとって、いいことだった。
人間も、いそがしいときほど、ぼーっとする時間がほしい。ぼーっとするには、それなりにきちんとぼーっとしないといけない。
それこそ、巨人の目から見てもわかるように。
「おひさま わらった」きくち ちき フレーベル館
【ざっくりまとめると】
女の子が風と散歩。虫たちの話を聞き、花たちやチョウの踊りを見、目が合ったカエルを追いかける。ずっと道を行けば、大きな木。鳥たちが飛び、女の子も風と手をつなぎ・・・。
【見どころ】
ワイルドな木版画
【ジャンル】
落書きアート
いのちの散歩
風も虫も花もチョウもカエルも鳥も、みんな命そのもの。
風と散歩する主人公の女の子は、まるで猫。世界との関わり方が、人間の子供というより、猫に近いと思う。
こういう世界の受け止め方ができたら、世界はきっとキラキラだろう。
もちろん、世界はキラキラするものばかりじゃない。怖いものもじっとりと潜んでいる。
キラキラするものと怖いものを全部ひっくるめて、世界は生命力たっぷり。
みんながつながっている。お日さまの下で。
下の記事で、イラストレーターのデザイン力抜群の絵本を紹介しています。よかったら、どうぞ。
トマもぐイラストレーターと絵本作家、どう違うんだろ?絵(図像)を描くという点はいっしょですが、仕事内容は全然ちがいます。基本的に、イラストは一枚もの、絵本は続きもの。ケチャもぐこの違い、かなり[…]