【2021年おすすめ絵本16選】現役司書・絵本の選書担当が厳選!

  • 2021年12月29日
  • 2023年10月31日
  • 絵本
トマもぐ
トマもぐです。図書館司書を15年以上。2021年は、福岡・太宰府の本屋「ブックスアレナ」さんで絵本の選書を担当しました。
本屋さんの本棚にならぶ絵本を選書するので、責任重大です。日々、リサーチを欠かさないようにしています。

毎年、絵本は1,400~1,800タイトル程度が出版されています(国際子ども図書館のデータより)。

ケチャもぐ
最近はちょっとした絵本ブームが来てるから、2021年はもっと増えたかもね。

2021年をふりかえってみて、いい絵本との出会いがたくさんありました。

今回、2021年1月1日~2021年12月31日に出版された絵本の中から、自信を持って「すばらしかった」と言える絵本をご紹介します。

目次

『えきべんとふうけい』マメイケダ

発売日2021年10月14日
出版社あかね書房
定価1,540円(税込)
ページ数40ページ
サイズ21×25.7cm
対象年齢3歳~大人
絵本のテーマ駅弁と車窓

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • おいしい色の食べものたち
  • 駅弁と車窓の眺めが交互に楽しめる

駅弁めぐり

醤油さしの「ぼく」は電車に乗って、乗客の駅弁をのぞいてまわる。
車窓の風景は、高層ビルから海、山、町、川、お城、田舎ところころ変わる。
そのあいだも、醤油さしはチキンべんとう、シウマイべんとう、サンドイッチ、おいなりさんなど、弁当をひらく音を聞きつけては渡り歩く。

トマもぐ
駅弁を絵本に出す場合、登場人物の数しか紹介できないのが普通。そこを、醤油さしを主人公にすることで、駅弁を好きなだけ紹介できるように工夫。

マメイケダさんはスケッチが得意なのだと思います。サイズ感の正しさが、柱になっている感じです。

書き殴ったような線を残しつつ、色のつけかたも少々荒っぽいのに、スケッチの精度が高いので、絵が写真のように美しい。

そして、食べものの絵が抜群にうまい。

カメラでおいしそうに撮るのが難しいように、絵も難しいはずなのですが。才能ですね。

『海のアトリエ』堀川 理万子

発売日2021年5月17日
出版社偕成社
定価1,540円(税込)
ページ数32ページ
サイズ22×28cm
対象年齢7歳~大人
絵本のテーマ特別な思い出

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • 本業が画家なので、全ページの完成度が高い(構図や技法などをひたすら研究してきたに違いない)
  • 感性豊かな暮らしに触れられる心地よさ

人生のベスト夏休み

おばあちゃんの部屋に飾られている女の子の絵。「わたし」がこの絵の女の子について聞いてみると、おばあちゃんは「この子は、あたしよ」と教えてくれる。
おばあちゃんはこの絵にまつわる思い出を話してくれた。
学校に行けなくなったとき、母の友人の絵描きさんから、海のそばの家に一週間遊びに来るように誘われたのだった。

トマもぐ
とても文学的な香りのする絵本で、短編小説みたい。

「海のアトリエ」は、2021年の第31回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞しています。絵本がこの賞をとったのは初めてです。

もともと画家としてタブローを主戦場としてきただけあって、絵がうまいです。

絵本の中でも、絵描きさんの描く絵がいくつも出てきますが、どれも雰囲気のあるいい絵です。

どこかのんびりした絵描きさんの暮らしぶりが心地よく描かれ、時間の流れがゆったりしています。

絵描きさんのいつもの暮らしが、女の子には特別な一週間となります。
のちのち、その子の人生を支えてくれるくらい大切な夏の思い出に。

『みちとなつ』杉田 比呂美

発売日2021年6月5日
出版社福音館書店
定価1,540円(税込)
ページ数44ページ
サイズ22×18cm
対象年齢5歳~大人
絵本のテーマ友だち

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • 余白たっぷり、すっきりと見やすい、カラフルな絵
  • ゆるーいストーリー

ガール・ミーツ・ガール

都会暮らしのもの静かな女の子「みち」と、田舎暮らしで活発な女の子「なつ」。
「みち」は母親と二人暮らしで、「なつ」は大家族。
そんな性格も環境も全然ちがう少女ふたりが、夏休みに出会うまでを描く。

トマもぐ
「みち」の都会暮らしと「なつ」の田舎暮らしを交互にみせながら、ふたりをゆっくりと近づけていく、ゆるーいストーリーもいい。

杉田比呂美さんの絵の特徴は、いい意味で躍動感がないところです。

人の動きは少々ぎこちないし、建物や家具などはきれいな直線で描いてあるし、物の配置も妙に揃っている。

全体的にぎこちないけど、どのページも構図がすごく美しいです。こういう絵が好きな人には、たまらない絵本だと思います。

『お月さんのシャーベット』ペク・ヒナ 長谷川 義史 / 訳

発売日2021年6月3日
出版社ブロンズ新社
定価1,540円(税込)
ページ数29ページ
サイズ25×25cm
対象年齢3歳~大人
絵本のテーマ熱帯夜のファンタジー

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • 月が暑さでとけ、月のしずくで冷たいシャーベットを作るという美しすぎる展開
  • やさしく光るシャーベット

月のスイーツ

夏の夜、暑くて眠れないおばあちゃんがベランダで涼んでいると、月が溶けてしずくが落ちているのに気づいた。
おばあちゃんは月のしずくをたらいに集めて、シャーベットを作ることに。
マンションの部屋はどこもエアコンや扇風機の使いすぎで、ついに停電。唯一、月のしずくで明るかったおばあちゃんの部屋に、みんなが集まってくる。
シャーベットを食べると暑さがひいて、エアコンなしで眠れる。
すると、こんどは月に住むうさぎたちがおばあちゃんの家にやってきて・・・。

トマもぐ
光るシャーベットなんて、一度たべてみたい。

月のしずくで作るシャーベットは、イメージですが、溶岩のような粘度があって、熱そのものの光を放っていそうです(シャーベットなので、なぜか冷たいわけですが)。

ペク・ヒナさんはこれまでの絵本で人形を使っていましたが、今回は登場人物を紙に描き、ミニチュアのセットにならべて動かしています。

ペク・ヒナさんの代名詞とも言える、個性爆発の人形を封印したわけですが、これはこれでユニークです。

動物たちの服があんまり似合っていないところや、各々ちょっと不気味な顔をしているところなど、ペク・ヒナさんの世界の感じが出ています。

月のシャーベットは、現実の月と同じように、主張しすぎない、やわらかな光を放っています。

間接照明よりもっと穏やかな気持ちになれそうな色。まさしく月でできたスイーツ。

『楽園のむこうがわ』ノリタケ・ユキコ / 作 椎名 かおる / 文

発売日2021年6月14日
出版社あすなろ書房
定価1,650円(税込)
ページ数27ページ
サイズ29×23.1cm
対象年齢9歳~大人
絵本のテーマ開拓

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • 精巧なミニチュアを見てるような鳥瞰図(空からの眺め)
  • 同じ場所の田舎バージョンと都会バージョンを、一目で比較できる

パラレルワールド

島にやってきたふたりの男。それぞれ、赤い髪の女性に迎えられ、家を建てはじめる。
黒髮の男は斧で木を切り、金髪の男はチェーンソーで片っ端から切っていく。
手作業にこだわる黒髮の男と、建設業者に邸宅を作らせる金髪の男。自然に調和した家と、自然を切り開いていく邸宅。
ふたつの世界の様相は、どんどん乖離していく。

トマもぐ
すごく美しい絵が最後まで続くけど、内容はちょっとぎょっとするかも。上空からの距離が、なんとも言えない気持ちにさせる。

上空のずっと同じ位置から、ふたつの世界の移り変わりを見ていくことになります。
ふたつはパラレルワールドになっていて、まるで神さまの視点から見せられているような感じです。

いっぽうは自然と仲良くし、動物たちと共生していく世界。もういっぽうは便利さを優先し、自然を制圧していく世界。

原住民の集落と、先進国との対比のようにも読めます。

前者のほうがどう見ても満ち足りているように見えます。何不自由ないから、外へ外へと侵略していく必要がないのでしょう。

もういっぽうの世界は、際限なく自然を壊していき、ある意味でウイルスのように増殖していきます。

とはいえ、ノリタケ・ユキコの描く街並みはすごく美しい。自然を制圧していく世界のほうも、必ずしも悪いものとして描かれてはいないように感じます。

都会の世界のほうが、より多くの人たちを養うことができるという一面もあります。

だから一概にどちらがよかったとは言いにくい。
でももうひとつの世界があったのだと、この絵本は思い出させてくれます。

『つきのばんにん』ゾシエンカ あべ 弘士 / 訳

発売日2021年9月9日
出版社小学館
定価1,650円(税込)
ページ数32ページ
サイズ21×25.7cm
対象年齢3歳~大人
絵本のテーマ月の満ち欠け

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • 細い目をした愛らしい動物たち
  • シロクマと月の絶妙にきれいなクリーム色

月イコール満月じゃない

「よるのどうぶつクラブ」で「つきのばんにん」に選ばれたシロクマのエミール。
エミールは毎日、日が暮れるまえに高い場所にのぼり、雲やコウモリを追いはらったりして月の番をした。
ところがある晩から、ちょっとずつ月が欠けていく。エミールには止めるすべもなく、ついに月は糸のように細くなった。
月がすっかり消えてしまった夜、月を想って一眠りすると・・・。

トマもぐ
ちょっとオットセイのようにも見えるシロクマがかわいい。

作者はゾシエンカという聞き慣れない名前で、南アフリカのヨハネスブルグ生まれ。イギリスで活動中のイラストレーターの女性で、この絵本がデビュー作。

Surface Design(サーフィスデザイン)という、ファブリックや洋服やテキスタイルなど、あらゆる製品に施されるデザインも手がけています。
ゾシエンカ(Zosienka)のホームページで、サーフィスデザインの作品を見ることができるのですが、洗練されてとっても美しい。

この絵本の舞台は、動物たちが住む町で、空想的で幻想的。でも月との関係は、昔の人間とあまり変わらないかもしれません。

科学的に何もわかっていなかった時代、人間の世界に月の番人がいてもおかしくありません。巫女みたいなものです。

「つきのばんにん」のシロクマはとくに何もしません。月を愛してるだけです。
その軽さがいい。

『たまごのはなし 』しおたに まみこ

発売日2021年2月19日
出版社ブロンズ新社
定価1,210円(税込)
ページ数48ページ
サイズ21×14.8cm
対象年齢7歳~大人
絵本のテーマたまごが見た世界

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • 不気味でかわいい(キモかわいい)たまご
  • ちょっと狂気が混じったユーモアあふれる語り口

たまごが意識を持ったら

キッチンに転がっていた一個のたまご。
ある日とつぜん目がさめて、立ちあがってみたり、飛んでみたり、自由に動きだす。
つい齧ってしまったマシュマロも目をさまし、いっしょにキッチンの外の世界へ。

トマもぐ
割れたらおしまいのたまごが、もし意識を持ったら、それはそれは神経質すぎるくらい神経質だろうと思うけど、ちがった。おおらかで大胆、しかも勇気がある。

たまごが意識を持ったのは、考えることを始めてからのようです。
それより前のことは考えてなかったから、なにも見ることも聞くこともしなかったと言います。
ずっとここに転がっていた気がするけど、ほんとのところはわからないと。

いちど考えることを始めると、白濁した意識にはもう戻れないでしょう。
僕らもいつのまにか意識を持ち、常に考えることをやめられなくなったように、「考えない」ということは不可能です。

意識がある前と後で、どちらが幸せなのかはわかりませんが、たまごは無邪気にまわりの物たちを起こしてまわります。

自分の意思で動くことが楽しい、すごくいい感じ、というのは意識を持ったばかりのものたちに共通かもしれません。
とはいえ、キッチンの世界ではそうでもないみたいですが。

たまごとマシュマロはキッチンの外に出かけていきます。
わりと常識的なマシュマロにくらべ、たまごはどうにも正しすぎるというか、何か人として欠けてはいけないものが欠落してます(人ではないですけど)。

ナッツたちの喧嘩を解決するやり方をみても同じです。きっと、欠けてる何かは、他者への思いやりでしょう。
まだまだ他者との折り合いのつけ方がわからないお年頃なのです。

まあ、そこが最高におもしろいのですが。

『ハナはへびがすき』蟹江 杏

発売日2021年11月15日
出版社福音館書店
定価1,540円(税込)
ページ数32ページ
サイズ26×24cm
対象年齢5歳~大人
絵本のテーマわたしの「好き」と、みんなの「好き」

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • 宝石みたいに美しいヘビやカエルや虫たち
  • 自分の「好き」を後押ししてくれるストーリー

みんなが嫌いなものを好きになっても?

ハナがいちばん好きなものはヘビ。ほかには、コマルハナバチ、カエル、トカゲ、ミミズ、クモ、コウモリも好き。
でも、家族のだれも理解してくれない。友だちが好きなものは人形やリボンで、ハナの好きなものと全然合わない。
ある日、みんなにも好きになってもらおうと、ハナは自分が好きなヘビやカエルたちを学校に連れていった。

トマもぐ
ハナが好きなものは、みんなが本能的に怖がったり気持ち悪がったりするものばかり。特別な感性の持ち主。

自分の好きなものが他人の好きなものと違っていてもいい、というのは、それはそうだと思います。
ただ、この絵本ではそのことを特別に言いたいわけではなさそうです。

ハナの場合、ほとんどの人が毛嫌いするものが好き、というように、状況がちょっと極端で特殊だからです。

好きなものがあれば、誰が何と言おうと応援する、という考えの親だとしても、ヘビやカエルやミミズやハチを家に持ちこんできたら、どう反応するでしょう?

生き物を愛でる気持ちは褒めつつも、あまりいい顔をしないかもしれません。
ハナが自分の嗜好を理解してもらえるハードルは、とても高いのです。

だからこそ、ハナのそうした感性は大事にしていきたいものです。

大人になったら消えてしまうかもしれないし、ずっと持ち続けられるかもしれない。運がよければ、理解してくれる人があらわれるかもしれない。
この絵本では、どうだったでしょう?

『うちのねこ』高橋 和枝

発売日2021年7月19日
出版社アリス館
定価1,540円(税込)
ページ数32ページ
サイズ26×22cm
対象年齢4歳~大人
絵本のテーマ野良猫を飼う

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • 水彩のにじみで表現された猫の丸みが、絶妙
  • 作者の実体験が元になっているのでリアル、経験者には共感できるところが多い

野良猫を飼うということ

野良猫だった猫がうちにやってきて、いっしょに暮らしはじめる。
隠れてなかなか姿を見せず、隠れるのをやめたと思ったら、近づいただけで毛を逆立てて怒る。
遠くからこちらを見張っているが、近づくと引っかいたり噛んだり。
季節が変わって、ようやくお尻をむけて座るようになったが、触ると噛みついて逃げる。
いつまでたっても打ち解けない猫が、うちの猫になるまで。

トマもぐ
我が家の飼い猫2匹も野良猫だったので、それはそれは苦労した。この絵本を読んでると、その頃のことが思い出されて、いっそう飼い猫たちが愛おしくなる。

猫はとにかくかわいいですが、信頼関係を築くのにけっこう時間がかかるものです。
最初の半年くらいは、夜行性がそのまんま残っているので、夜中に暴れるのはしょっちゅう。

おそらく、猫がほんとうに心を許してくれるのは、3年ほどいっしょに暮らしてからでしょう(元野良猫の場合)。

シャーッと牙をむいて威嚇する猫のしぐさ。
たいていの場合、怖さのあまり威嚇することが多いらしいですが、あれをやられるとちょっと落ちこみます。

絵本にも出てきますが、猫の威嚇する顔も、慣れてみるとあれはあれでかわいいです。

猫と暮らすには、毎日きちんとごはんをあげて(時にはおやつも)、撫でたり(スキンシップ)、遊んであげたりすることが大事。
この絵本は、猫の飼い主みんなの共感がつまっています。

『おひさま わらった』きくち ちき

発売日2021年4月6日
出版社フレーベル館
定価2,530円(税込)
ページ数36ページ
サイズ30×24cm
対象年齢3歳~大人
絵本のテーマふれあい散歩 in 自然

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • ワイルドな木版画
  • 自由でカラフル、読むと元気がもらえる

いのちの散歩

風と散歩する女の子。虫たちの話を聞いたり、花やチョウの踊りを見たり、目が合ったカエルを追いかけたり。
さらに道を進むと、大きな木。
飛びまわる鳥たちに囲まれ、風と手をつなぐと・・・。

トマもぐ
風と散歩するって表現が、なんだか動物的で、この女の子はまるで猫。世界とのふれあい方も、猫に近い気がする。

虫も花もチョウもカエルも鳥も、みんな命あるものですが、そんなあたりまえのことを思い出させてくれる絵本です。
風だって命あるものの一員、という感じさえ受けます。

主人公の女の子は、猫のように、命の一員たちとふれあいながら散歩します。
こういう接し方ができたら、世界は驚くほど多様で、無限のように広く感じられるかもしれません。

もちろん、怖いものもじっとりと潜んでいるでしょう。怖いものたちとの付き合い方も、学んでいく必要があるはずです。

この絵本を読むと、全部ひっくるめて、みんながつながっているように感じます。
お日さまの下で。

『ハムおじさん』大桃 洋祐

発売日2021年10月31日
出版社徳間書店
定価2,090円(税込)
ページ数32ページ
サイズ21×25.7cm
対象年齢5歳~大人
絵本のテーマほのぼの

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • アニメーション作家らしい動きが豊かな絵
  • かわいくて、しゃれてる世界観

サイレントムービー風ドタバタコメディー

ハムおじさんは朝早くに庭いじりをするのが日課なのだが、めざまし時計の故障ですっかり寝坊。
町の商店街に行き、壊れためざまし時計を時計屋に預け、待ち時間に買い物をする。
帽子や植木鉢、浮き輪、お皿、クッキーとジャムなど、買いすぎて歩くのもままならない。
めざまし時計を引きとった帰り、もうすぐ家というところで、石につまずいて坂を転がっていく。

トマもぐ
ハムおじさんが木にぶつかったときの、「どっしーん」などのオノマトペ。ひらがなやカタカナが、手書きでカラフルに描いてあって、めちゃくちゃかわいい。

大桃洋祐さんは、元はアニメーターとして、NHKの「みんなのうた」などのアニメーション作品を手がけています。

ツイッターで公開しているアニメーションのgif画像も秀逸で、2020年に「ぼくらのまちにおいでよ」で絵本作家デビュー。
この絵本が2作目にあたります。

『ハムおじさん』も短編アニメーションの趣があり、なんてことのないストーリーで、絵の愛らしさや、人物や物の動きのおもしろさを前面に出しています。

ジャック・タチの有名な映画、『ぼくの伯父さん』のユロおじさんシリーズに近い雰囲気を感じます。

『ニッキの火星探検』コマヤスカン

発売日2021年10月28日
出版社学研プラス
定価1,540円(税込)
ページ数40ページ
サイズ30.3×21.6cm
対象年齢7歳~大人
絵本のテーマ火星への旅

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • ひと昔まえを思わせる、ベタな近未来イメージがなつかしい
  • 地上から宇宙ステーションまでつながっている宇宙エレベーター

宇宙が身近な時代

火星で行方不明になった父親を探しに出かけるニッキ。
ロボネコとふたりで自動タクシー、宇宙エレベーター、シャトルと乗り継いで火星にむかう。
体力トレーニングや探査機のシミュレーションをしながら、何日もかけて火星基地にたどり着くと、父親の信号が途絶えた場所をめざして探査機を飛ばす。
砂嵐に巻きこまれそうになり、谷間に急降下したところ・・・。

トマもぐ
ロボネコはまさにネコ型ロボット。ドラえもんよりずっとスマートな体型だけど。

絵の情報量がなかなかボリュームがあって、小説だったらたくさんの説明が必要になりそうです。
絵本だからさっさとページをめくっていくこともできますが、細かいところまで見るのがおすすめ。

現実世界には存在しないものだらけで、とくに説明もないので、自由に想像できるようになっています。
たとえば、一輪車とセグウェイを合体させたような乗り物や、でかいダンゴムシっぽいルンバみたいなロボットなど。

ところで、2021年には民間人の宇宙旅行が実現しました。

着実に宇宙が身近になりつつある気がしますが、この絵本のような時代はまだずっと先でしょう。
汚染で地球が住めなくなるとか、よほどの緊急性がない限り。
何しろ宇宙のことは、まだ全体の十数パーセント程度しかわかっていないと言います。

とはいえ、これまで漫画や映画で描かれてきた未来は、実現されたものもたくさんあります。
科学的なエンタメは、ビジネス書になり得るし、目を通しておいたほうがいいとさえ言えるかも。

そんな真面目な動機は抜きにしても、未来を描くのは自由ですし、こういうある意味無責任な話を読むのは、純粋に楽しい。

地上から宇宙ステーションまで一直線の宇宙エレベーターなんて、この目で見てみたいです。
高いところが苦手なので、乗らないでしょうけど。

『ぼくは川のように話す』ジョーダン・スコット / 文 シドニー・スミス / 絵 原田 勝 / 訳

発売日2021年7月14日
出版社偕成社
定価1,760円(税込)
ページ数42ページ
サイズ26×24cm
対象年齢7歳~大人
絵本のテーマ吃音(どもり)

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • うっとりするほど美しい、光と川の表現
  • 吃音に悩む息子に、父がかけた言葉

川の流れのように

吃音の「ぼく」には、つっかえてしまう言葉がいろいろある。
学校ではうまく発言できないし、みんなの前での発表もだめだった。
放課後、お父さんは「ぼく」を川に連れて行き、ある言葉をかけてくれる。

トマもぐ
一番ほしかった言葉が手に入るなんて、めったにないこと。ちょっとした奇跡。

吃音は幼児期に発症しやすく、なぜか男に多いらしいです。
ほとんどは自然と治りますが、まれに大人になっても治らない人がいます。あるいは、メンタル面から、大人になって発症する人も。

この絵本は、作者ジョーダン・スコットの実体験が元になっています。本業は詩人。
吃音は、この人のように、言葉にものすごく敏感という傾向があるかもしれません。

詩のような、淡々とした美しい文章に、画家シドニー・スミスらしい光にあふれた美しい絵がつけられています。

『もりにきたのは』サンドラ・ディークマン 牟禮 あゆみ / 訳

発売日2021年9月21日
出版社春陽堂書店
定価2,090円(税込)
ページ数25ページ
サイズ23.2×29.7cm
対象年齢4歳~大人
絵本のテーマよそ者(&温暖化)

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • ずばぬけたデザイン力と、鮮やかな色づかい
  • 華やかな植物をまとったシロクマ

森のシロクマ

シロクマが森にやってきた。
森の動物たちは、はじめて見るシロクマを警戒し、だれも話しかけようとしない。
シロクマは毎日葉っぱを集めてまわり、不気味に思った動物たちはますます注意して見張るようになる。
それでもシロクマの懸命な様子にカラスが心を動かされ、何をしてるのか聞いてみると・・・。

トマもぐ
温暖化や難民がテーマなのはあきらかだけど、仰々しくないし、説教くさくもないよ。

テーマが優等生すぎる絵本は、読者を興ざめさせる危険性があると思います(そのテーマが重要な問題であることに異論はないにしても)。
その点、この絵本はよくできてます。

北極の氷がとけて、シロクマ(ホッキョクグマ)が南に流されてくることで、シロクマと森のあり得ないコラボを描いています。

シロクマがたくさんのいろんな葉っぱを身にまとう姿は、神々しいです。
作者のサンドラ・ディークマンは、きっとこれを描きたくてこの絵本を作ったんじゃないかと思うくらい。

野生動物と森の絵は色鮮やかで、細かく几帳面に描きこまれています。
熱帯のジャングルを描き続けたフランスの画家、アンリ・ルソーに通ずるところがあるかも。

サンドラ・ディークマンはイギリスのイラストレーターで、世界的な絵本作家ショーン・タンに評価されています。
これから要注目の絵本作家です。

『アリィはおとどけやさん』大久保 雨咲 / 作 吉田 尚令 / 絵

発売日2021年5月26日
出版社ひさかたチャイルド
定価1,430円(税込)
ページ数32ページ
サイズ21×25cm
対象年齢3歳~5歳
絵本のテーマ虫たちの青春

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • いかにも絵本らしいメルヘンチックでかわいい絵
  • 先が気になるストーリー

ワーカホリックなアリの配達屋さん

配達屋の「アリィのおとどけやさん」は大繁盛。
イモムシのイモムーはお店に遊びにいくが、アリィが忙しくて、なかなか遊んでもらえない。
アリは働き者で、イモムシはサナギになってチョウになる。
そんなふうに生き方を定められた虫たちの、青春のお話。

トマもぐ
アリのアリィはもちろんかわいいけど、ちょい役のテントウムシがお気に入り。

アリはずっと働き続けているイメージがあります。目にするアリはいつも動いてるからでしょうか。
実際のところ、アリもちゃんと休憩してるらしいです。冬眠するアリだっているようです。

まあ、もしゴジラみたいな巨人がいたら、人間だって、巨人の目にはいつも働き続けているように映るかもしれません。
特に現代人なんて、それはそれは動きまわってるように見えるでしょう。

人間の目からアリを見たとき、もしぼーっとしているアリがいたら、すごく目につくに違いありません。
それは、アリがアリらしくない瞬間。

この絵本では、「らしくない」ことの大切さが描かれています。

人間も同じで、たまには何か「らしくない」ことをやってみるのもいいはず。
それこそ、巨人の目から見てもわかるように。

『いつか あなたを わすれても』桜木 紫乃 / 文 オザワ ミカ / 絵

発売日2021年3月26日
出版社集英社
定価1,870円(税込)
ページ数48ページ
サイズ23.5×19cm
対象年齢7歳~大人
絵本のテーマ3世代の女たち

トマケチャブックスのおすすめポイント

  • おしゃれで美しいイラストレーション
  • 静かに感動するストーリー

親子3世代に流れる時間

おばあちゃんの「さとちゃん」は最近もの忘れがひどくなり、ママの名前も忘れてしまった。
さとちゃんは本当は男の子がほしかったから、自分のことを忘れてしまったのかもしれないとママは考えている。
さとちゃんは「わたし」をママだと思い、「わたし」のママを他人だと思っているようだった。
いつか、さとちゃんと同じように、ママも「わたし」のことを忘れてしまうだろうか。

トマもぐ
「老いる」ことは生物にとってつらく厳しいことだけど、この絵本を読むと、そんな現実も受け止められそうな気がしてくる。

生きることは、日々老いていくことです。人生のいつかの段階で、だれもが痛感することだと思います。

この絵本のように、親子3世代が描かれると、「老い」は目に見えてわかりやすくなります。
少女とママとおばあちゃん。

それぞれ違う人生を歩みはしても、少女からママ、ママからおばあちゃんへと変わっていくことは同じです。

おばあちゃんの「さとちゃん」は認知症らしく、自分の娘のことも忘れてしまいます。
生きてこれまでいろいろ生活してきたけど、ほとんど忘れてしまう。

これは想像すると、けっこうつらいことです。過去のあれこれ、今のこれもあれも、けっきょくは何もかも忘れてしまうのですから。

みんなが認知症になるわけではありませんが、可能性は低くありません。この先、何もかも忘れてしまう日がやってくるかもしれない。

だいぶ切なくなりますが、この絵本の終盤をぜひ読んでください。厳しい現実は変わらずとも、心が救われるはずです。

【まとめ】2021年おすすめ絵本 by トマケチャブックス

2021年に出版された絵本から、16冊を選びました。

トマもぐ
ほかにも今回取り上げたかった絵本がいくつかあるので、更新していく予定だよ。

今回選んだ絵本

  • 『えきべんとふうけい』マメイケダ
  • 『海のアトリエ』堀川 理万子
  • 『みちとなつ』杉田 比呂美
  • 『お月さんのシャーベット』ペク・ヒナ 長谷川 義史 / 訳
  • 『楽園のむこうがわ』ノリタケ・ユキコ / 作 椎名 かおる / 文
  • 『つきのばんにん』ゾシエンカ あべ 弘士 / 訳
  • 『たまごのはなし 』しおたに まみこ
  • 『ハナはへびがすき』蟹江 杏
  • 『うちのねこ』高橋 和枝
  • 『おひさま わらった』きくち ちき
  • 『ハムおじさん』大桃 洋祐
  • 『ニッキの火星探検』コマヤスカン
  • 『ぼくは川のように話す』ジョーダン・スコット / 文 シドニー・スミス / 絵 原田 勝 / 訳
  • 『もりにきたのは』サンドラ・ディークマン 牟禮 あゆみ / 訳
  • 『アリィはおとどけやさん』大久保 雨咲 / 作 吉田 尚令 / 絵
  • 『いつか あなたを わすれても』桜木 紫乃 / 文 オザワ ミカ / 絵

下の記事でも、おすすめ絵本を紹介しています。

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