【絵で選ぶ大人向けおすすめ絵本20選】思わず手にとりたくなる

  • 2021年2月24日
  • 2023年10月31日
  • 絵本
  • 絵がすてきな絵本を探してるけど、なかなか見つからない
  • 探すにも多すぎるし、本屋とか図書館に行くの面倒
  • 個人経営のおしゃれな書店に置いてあるような絵本を探してる

つい手にとってしまうほど、絵がすてきな絵本をご紹介します。

トマもぐ
本棚に飾りたくなるね。

絵本なら、絵に力が入ってるのは当然。

どれもハイレベルですが、そんな強者揃いの中にいても、つい手が伸びてしまう絵本があります。

ここに紹介する絵本は、眺めているだけでも楽しいです。

目次

「にくのくに」はらぺこめがね 教育画劇

【ざっくりまとめると】
ローストビーフ、から揚げ、ハンバーグ、テリヤキチキン、ソーセージとハム、とんかつ、スキヤキ。それぞれの「にくのくに」の王さまが、「いちばんの王さま」をめぐって、お国の肉料理じまん。

【見どころ】
クローズアップお肉

【ジャンル】
肉食バンザイ

ガツンと肉が迫ってくるぞ

グルメ番組みたいに、おいしい見せ方がうまい「はらぺこめがね」。
画ヂカラのある肉料理がページをめくるとドカンとあらわれる。

絵の雰囲気は安野光雅を感じさせるところがあり、異国情緒ゆたか。
個性豊かな「にくのくに」の王さまたちは、カラフルで滑稽でおしゃれだ。

この絵本はすごく食欲を刺激してくる。
いつか「食べれる絵本」というのが開発されるとうれしい。

トマもぐ
はらぺこめがねは「絵本作家図鑑」でも紹介してるよ。
絵本作家図鑑

「おいしいは美しい」を追求する、はらぺこめがねの絵本どんな絵本作家さん?原田しんやさんと関かおりさんによる夫婦イラストユニット(2011年結成)。食べ物と人をテーマに、おいしそうな絵本をたくさん[…]

「こんなおみせしってる?」藤原マキ 福音館書店

【ざっくりまとめると】
まんじゅう屋、とうふ屋、靴屋、床屋、駄菓子屋、サンプル屋など、昭和のお店の中をのぞき見。

【見どころ】
過去にタイムトラベルしたような気分になれる生活感

【ジャンル】
実録昭和のお店

昭和タイムトラベル

この絵本が発売されたのは1985年。その当時よりも、もう少し前の時代のお店をスケッチしたものじゃないかと思う。
もう今では見ることがないお店も多い。

作者の藤原マキさんは、漫画家のつげ義春の奥さん。
どこかに「つげ」の名前が小さく出てくるページもある。

この絵本はお店が主役と思いきや、人間が主役だ。
すごく生活感のある風景が切り取られていて、きっとたっぷりリサーチをしたのだと思う。
だから今読むと、昭和をのぞき見するような気分になる。

「セーラーとペッカ、町へいく」ヨックム・ノードストリューム, 菱木晃子訳 偕成社

【ざっくりまとめると】
元船乗りのセーラーがセーターをなくし、犬のペッカを連れて新しいセーターを買いに町に出かける話。

【見どころ】
裸にサスペンダー

【ジャンル】
ヘタウマおしゃれ

スウェーデンのユーモア絵本

作者のヨックムさんはスウェーデンの有名な美術作家。
そちらが本業で、絵本はこの「セーラーとペッカ」シリーズが5冊あるだけだ。
ドローイングとコラージュを得意としており、「セーラーとペッカ」シリーズもこれらの技法で描かれている。

時に大胆なほどのヘタウマで、鉛筆の下書きのまま取り残されたような部分がいっぱい出てくる。

そんな絵にふさわしく、ストーリーもすごくゆるい。
セーターを買いに車に乗ったらエンスト、微塵も悲観しないセーラーは、天気もいいからと歩いて町へむかう。

セーラーとペッカはあくせくしない。
ぜいたくな時間の使い方ができる人はかっこいいなと思う。

「夏がきた」羽尻利門 あすなろ書房

【ざっくりまとめると】
昔の日本の風景が残っている海辺の町ですごす、少年たちの一日。

【見どころ】
パノラマ写真のような絵

【ジャンル】
ぼくたちのなつやすみ

海辺の町に夏がきた

最近どんどん夏の気温があがって厳しい季節になってきてるけど、この絵本を読むと、夏はやっぱりいいなあと思う。

こどもにとって夏といえば夏休み。
休みは長いし、日は長いし、友だちとたっぷり遊べる。

この絵本はパノラマ写真のような絵がイチオシなのだけど、海辺をこどもたちが走るシーンは、見ているだけで気持ちがいい。
こどもにあわせてローアングルなので、空がうんと広い。

この絵本で描かれる日は夏の始まりで、まだセミの鳴き声や風鈴や麦茶が新鮮に感じられる頃。
だからよけいに、こどもたちのテンションも高い。

「まめざらちゃん」あさのますみ / 文 よしむらめぐ / 絵 白泉社

【ざっくりまとめると】
青年が買ってきた豆皿の「まめざらちゃん」。醤油やラー油など調味料しか入れられず、ごちそうを盛られる皿仲間たちにあこがれる日々。

【見どころ】
温かい食卓

【ジャンル】
お皿社会

豆皿の使い道

キッチンという小世界で生きているお皿たち。
ダダさんの家の食器棚の中はほどよい数で、お皿たちの世間は穏やかだ。
みんな、新入りのまめざらちゃんにやさしい。

この絵本は色づかいがセンス抜群で、料理と器の相性もいい。
人間のダダさんとピピさんの服も色がきれい。
服や器が好きな人にもおすすめしたい絵本だ。

ダダさんの食卓にならぶ料理はおいしそうな料理の王道ばかり。
ラーメン、ナポリタン、クリームシチュー、親子丼、寿司、餃子、エビフライなどなど。

ちゃんと湯気が立っていたり(白ごはんも)、ラー油と醤油が分離していたり、調理中のスープが沸騰していたり、表現が繊細。

「新幹線のたび 〜はやぶさ・のぞみ・さくらで日本縦断〜」コマヤスカン 講談社

【ざっくりまとめると】
青森に住んでいる「はるかちゃん」が、新幹線を乗り継いで、鹿児島のおじいちゃんとおばあちゃんの家にむかう、一日がかりの新幹線の旅。

【見どころ】
ジオラマ風の3D日本地図

【ジャンル】
好きだよ高いところ

青森から鹿児島へ日本縦断・新幹線旅行

この絵本は、作るのに気が遠くなるほどの手間と時間がかかったんじゃないかと思う。
飛行機から見おろしたような眺めだから、小さな町を細かく描いている。

しかも、各地の名所を大きく描いて、日本地図をとてもわかりやすくデフォルメしている。
ぱらぱらページをめくるだけでも、各地の特徴が一目瞭然だ。

たとえば、東京周辺の関東平野が平地なのがよくわかるし、絵で見ても壮観だなあと思う。
山だらけの九州とは大違いだ。

全体的に日本はやっぱり山が多い。

そして知識としてはあたりまえだけど、海に囲まれているのが視覚的にわかる。

そしてもうひとつ、地平線・水平線まで見通せるから、地球はまるいのだと実感できる。
毎日のあれこれに疲れたとき、この絵本を開いて、客観的に人間社会を見直すのもいいし、遠い地に思いをはせるだけでもいいかも。

「この まちの どこかに」シドニー・スミス / 作 せな あいこ / 訳 評論社

【ざっくりまとめると】
寒い冬の日に、街を歩きまわる子どもがひとり。
いなくなってしまった猫を探しにきた街は、クラクションやサイレンや工事の音で騒がしい。
猫の隠れ場所になりそうなところや、ごはんをくれそうな場所、危険な通りなんかを確認しながら、雪の中を探し歩く。

【見どころ】
映画のような絵本

【ジャンル】
ショートムービー

大都会と雪とこども

この絵本はカラーだけど、全体的に陰影が落ちていて、モノクロのようだ。

空がせまい大都会らしい表現だと思う。

作者のシドニー・スミスは、今作ではじめて絵と文の両方を作っている。

これまでの作品では、すべて他人が作ったストーリーに絵をつけてきた。

映画でいうと、優秀なカメラマンといったところだ。
(個人的には、『シンドラーのリスト』のヤヌス・カミンスキーみたい)

優秀なカメラマンがもし監督をしたら、おそらく画にこだわるだろうと思う。

「この まちの どこかに」は、シドニー・スミスの絵へのこだわりと信頼がよくわかる。

たとえば、説明的な絵本になってないところ。
最後まで読まないと、よく意味がわからないようにできている。

その効果は抜群だ。
ぐっとくる。

それに、絵がすばらしいから、ページをめくる手もとまらない。
冒頭のバスのシーンなんか、最高だと思う。

「バスザウルス」五十嵐 大介 亜紀書房

【ざっくりまとめると】
森の中に捨てられていたバスに手足が生え、バスザウルスとなって町にむかう。
バス停で休んでいると、おばあさんが乗りこんできて、その日からおばあさん専用バスになった。
でもある日、おばあさんはバス停にあらわれず、バスザウルスは1000日待ち続けるけれど・・・。

【見どころ】
町を徘徊するバスザウルス

【ジャンル】
鉄くずダイナソー

ジュラ紀の夜

「海獣の子供」で有名な漫画家、五十嵐大介の2作目の絵本(1作目は2013年出版の『人魚のうたがきこえる』)。

捨てられたバスがティラノサウルスみたいになって町に戻ってくる、という発想がストーリー性があって、漫画家らしいと思う。

短編漫画という雰囲気もある。

バスザウルスの姿形の異様さが目をひくし、色のつけ方も独特。

暗視スコープでのぞいた夜の世界という感じで、サビだらけのバスザウルスにぴったりだ。

バスザウルスには、現役だったころの交通機関としての記憶が残っているのだろう。

唯一のお客さんであるおばあさんのために、毎日毎日、きっちり時間を守って目的地へ運んでいく。

野生の動物が棲みつき、この世から一歩足を踏み出しているようなバスザウルスに、おばあさん以外の乗客はやってこない。

もはや普通の人間には見向きもされないバスザウルス。

おばあさんだけが、町につなぎとめてくれる存在だった。

「よるのかえりみち」みやこし あきこ 偕成社

【ざっくりまとめると】
遊び疲れて、お母さんに抱っこされて帰るウサギの男の子。
夜の通りは静かで、誰かの話し声や、料理のいい匂いがする。
家々の窓のむこうには、ひとりでいる人や、パーティーをしている人たち、さよならをしている人たちがみえる。
家に帰り着いてベッドに入ると、みんなの一日の終わりを想像しながら、眠りにつく。

【見どころ】
夜のあかりの表現

【ジャンル】
夜の過ごし方

モノクロの夜

ウサギの親子が夜道を帰っていると、レストランや本屋が店じまいをしているので、けっこう遅い時間だとわかる。

少なくとも、夕飯時はすぎている。

通りも静かで、家の中の話し声が聞こえてくるくらい。

ウサギの男の子は抱っこされて、眠くてぼんやりしている。

そんななんてことのないシチュエーションが絶妙で、情景が目に浮かぶようだ。

いろんな夜の過ごし方があって、どの絵も多くは語らないけど、たくさん想像したくなるほどの奥行きがある。

写真におさめたような、今にも動き出しそうな場面と、なんとも言えない登場人物の表情がそうさせるのだと思う。

夜というのは、こうやって丁寧に観察していくと、すごく雰囲気のある時間だとあらためてわかった。

大人になると、忘れがちだけど。

「おちばいちば」にしはら みのり  ブロンズ新社

【ざっくりまとめると】
さっちゃんが作ったどんぐりの馬が、テントウムシを乗せて勝手にお出かけ。
追いかけていくと、強い風に包まれ、気づいたらさっちゃんも馬の上。
たどり着いたのは、虫たちの「おちばいちば」。
モグラのよろず屋や葉っぱの魚市場で遊んでいると、怪獣のような足が襲いかかってきた。

【見どころ】
葉っぱの魚たち

【ジャンル】
昆虫マーケット

海の幸じゃなくて森の幸

にしはらみのりはいつも虫や小動物たちの社会を描く。

どことなく、宮沢賢治の世界観を思わせるところがある。

虫たちの社会はけっこう細かく丁寧に、工夫して作られていて、だから虫たちの生活感がちゃんとある。

ふつうはこんなに密度のある描き方はしないと思う。

作者の執念さえ感じられそうで、その入れ込み方と、世界へののめり込み方が、宮沢賢治をふと連想させたのかも。

1ページ1ページ、見れば見るほど、ほんとにいろんなものが詰まっているので、ストーリー抜きで楽しめる。

とくに落ち葉の魚市場は必見だ。そして、落ち葉の魚たちと空を泳ぐ女の子。

文句のつけようのない、すばらしい場面の連続だと思う。

トマもぐ
にしはらみのりは「絵本作家図鑑」でも紹介してるよ。
絵本作家図鑑

こどもに愛される、にしはらみのりの絵本の魅力どんな絵本作家さん?福岡在住の絵本作家、にしはらみのりさん。2007年に「いもむしれっしゃ」でデビューして以来、ゆっくりペースで絵本を刊行しています。絵だけを担当した「[…]

「おうさまのおひっこし」牡丹 靖佳 福音館書店

【ざっくりまとめると】
困っているものを放っておけない王さまは、照れ屋で指示がヘタ。
気のいい6人のお供たちは王さまの指示に全力で取り組むが、あわてんぼうで勘違いだらけ。
ある日、王さまは6人のお供たちが小さなベッドひとつで寝ているのを知り、大きなベッドを作らせる。
ところが6人のお供たちは、王さま用のベッドを大きくする命令と勘違いし、城にも入らない巨大なベッドを作ってしまう。
そこで大きな城に引っ越すことにし、大量の荷物を荷車でひいていくが、行く先々で人や動物を助けようとするたびに、過度な手助けによって荷物を失っていく王さま一行。

【見どころ】
気前のよすぎる王さまと、気のよすぎる家臣たち

【ジャンル】
ウルトラ断捨離

王さま一行の大盤振る舞い

現代美術作家、牡丹靖佳の美しい絵本。
ヨーロッパの古い本のイラストを見るような、繊細で幾何学的で、細かい描写。

離れたところから描いた絵が多く、もの静かな印象がある。

意識的にそうしているのは明らかで、色のつけ方もあえて淡くて頼りなく、古くなってしまった紙のような表現をめざしたのだと思う。

お話のほうは、ドラゴンや魔法使いが出てくるわけじゃないけど、申しぶんなく現実離れしているので、完全にファンタジーだ。

神話といってもいいほど。

でも、ベッドのオチは一気にスケールが小さくなって、そこがまたいい。

「まめまめくん」デヴィッド・カリ / 文 セバスチャン・ムーラン / 絵 ふしみ みさを / 訳 あすなろ書房

【ざっくりまとめると】
豆粒みたいに小さな「まめまめくん」は人形の靴を履き、マッチ箱で眠り、バッタに乗って遊ぶ。
のびのび成長していくけど、サイズはほとんど変わらず、学校では小さすぎた。
だれとも遊べずに、絵を描いて過ごした「まめまめくん」が、大人になってついた仕事は・・・。

【見どころ】
小人の遊び

【ジャンル】
小人の就活

借りぐらし?のまめまめくん

これはジャケ買いをするタイプの絵本。
表紙のマッチ箱の絵がすごくいい。

マッチ箱の中に、布団と枕を入れて寝ている、小さな男の子。

「借りぐらしのアリエッティ」のように、小人が人間の家に隠れ住む、という話ではなくて、このマッチ箱サイズのまめまめくんは、どうも人間から生まれたらしい。

親はいっさい出てこないが、家では肩身の狭い思いをすることもなく、のびのびと育てられてるようだ。

自分の小ささに気を病んで引きこもる、なんてことも全然ない。
でも学校ではとても苦労する。

というか、よく普通サイズの人間が通う学校にこの子を送りこんだな、と思わないでもない。

下手したら、あやまって踏まれて死んじゃうぞ、と思うのだけど、まめまめくんの親は何か思うところがあったのかもしれない。

実際に、まめまめくんは学校に馴染めなかったおかげで、将来の仕事につながるスキルを身につけることができた。

圧倒的なハンデが、強みに化けることもあるのだ。

「人魚のうたがきこえる」五十嵐 大介 イースト・プレス

【ざっくりまとめると】
ラグーンに生息する人魚たちは、歌いながら獲物を狩ったり、むさぼり食ったり、眠ったり。
初めてラグーンの外に出てみると、そこには巨大な肉食の生き物がいて、命からがら逃げ帰る。
その後、一匹の人魚がふたたびラグーンの外へ。

【見どころ】
穏やかな海が一変する瞬間

【ジャンル】
マーメイド伝説

人魚の生態

人魚たちは、サンゴ礁が広がる海で生活している。

こういう豊かな海をみる限り、近くに人間の生活圏がないということだろう。

ある程度、原始的な部分を残した国ならあり得るかもしれない。

童話の時代とちがって、ヒトが人魚に出会うシチュエーションはすごく限られたものになりそうだ。
あるいは、この絵本のように、人間を登場させないか。

代わりに、イルカの生態でも追うように、人魚を追っている。

よく知られている人魚とちがって、この絵本の人魚たちは下半身がエイだ。
通常の魚の下半身を持った人魚よりも、スピードが出ないと思う。

こういうラグーンの内側で、ゆったり生活するのに向いているのだろう。

でも、人魚たちは半分が人間というだけあって、好奇心を持っている。
巨大な肉食生物がいるラグーンの外へ、くりかえし出ていこうとするのだ。

好奇心と冒険心を強く持ちあわせていたのは、一匹の人魚だけだった。
そういうところも、人間とおなじ。

「ツリーハウス」ロナルド・トルマン , マライヤ・トルマン  西村書店

【ざっくりまとめると】
シロクマがクジラに乗って、海に建てられたツリーハウスにやってきた。
続けて船でやってきたクマといっしょにくつろいでいると、フラミンゴやサイ、カバ、パンダ、クジャク、フクロウなど、たくさんの動物が集まってくる。
みんなが帰ったあとも、2頭のクマはツリーハウスで生活。

【見どころ】
ツリーハウスに群がる動物たち

【ジャンル】
ツリーハウス・ネットワーク

動物たちのレジャースポット

文字がひとつも出てこない絵本。

解説がないので、絵を見て想像するしかない。

海に立っている一本のツリーハウス。
やがて潮がひいて、陸の動物が押し寄せてくる。

全ページに変わらず出てくるツリーハウスは、動物たちに大人気だけど、だれが建てたかはわからない。

常識的に言えば人間だけど、この絵本の動物たちは擬人化されている。
動物が建てたとしても不思議じゃない。

人間が建てたものの誰も住まなくなったツリーハウス、という可能性も捨てがたいけど。

ここに集まった動物たちは、ふだんあまり接点はない。
ツリーハウスがくれた奇跡の時間と言えるかも。

「あなふさぎのジグモンタ」とみなが まい / 作 たかお ゆうこ / 絵 ひさかたチャイルド

【ざっくりまとめると】
ジグモのジグモンタはお直し専門の「あなふさぎや」を営んでいる。
どこを直したのかわからないくらいきれいに仕上げるのが、ジグモンタが得意とするところ。
ところが、せっかくお直しした服が、古くさいと言われてしまうことが続く。
ショックを受けたジグモンタは、しばらく店を閉めることにして出かけ、破けた毛布で風邪をひいてるフクロウたちに出会う。
毛布を繕ってあげるが、急ぎでやったので、穴をふさいだあとがそのまま残ってしまった。
それがかえって思い出になって楽しいと言われ、穴を隠してしまうより、美しく目立たせる方法をひらめいて・・・。

【見どころ】
コラージュ絵本

【ジャンル】
ビジネスの壁

あなふさぎの流儀

クモといえば、糸。
ジグモのジグモンタは、クモの糸を使ってお直しの商売をしている。

生真面目な性格で、お直しのあとが目立たないように、きれいに修復するのがモットー。

実際のジグモは、細長い筒状の袋を作って地中に住み、袋に獲物がとまると、あがってきて袋をやぶって捕らえてしまう。
この破れた穴を、あとで自分で修復するらしい。

この絵本も、そういうジグモの習性から発想されている。

ジグモンタは4代目の「あなふさぎや」で、腕はたしか。

穴のあとがわからないくらいに修復ができるが、この小動物たちの世界でも、昔とは時代が変わってしまったらしい。
物質的に豊かになったのか、お古が嫌われるようになった。

お店は客足が遠のき、ジグモンタはしばらく閉店することを決める。

代々この商売をやってきたジグモンタのお店。
ジグモンタもあなふさぎ以外にやれることはない。

ただのお直し屋からの脱皮は、仕事を離れて、好意からやってあげたあなふさぎがきっかけだった。
突破口は、仕事を離れて誰かの役に立ってみること。

「ながいながいみち」フランク・ビバ アサダ ワタル, まきお はるき / 訳 バナナブックス

【ざっくりまとめると】
海辺の町の長い長い道を、「ぼく」は自転車で走る。丘やトンネル、橋をこえて走りまくる。夜になっても。

【見どころ】
デザインで魅せる、気持ちのいいサイクリング

【ジャンル】
とっておきのサイクリングコース

びよーんとサイクリング

まず、表紙の大きなタイトルと、美しいデザインに目がいく。
「ながいながいみち」となっているが、原書では「ALONG A LONG ROAD」とでっかく描いてある。

クラシックなおしゃれ感のあるイラストで、古い絵本のようにもみえるが、出版は2011年なのでそんなに昔じゃない。

すでに名作絵本の貫禄がある。

自転車と「ぼく」のセットがこの絵本の主役。
「ぼく」の体も自転車も、道と一体になったみたいにクネクネ。
横スクロールの疾走感をかきたてる。

ネガとポジが反転したような世界で、大地が黒いので、濃いオレンジ色の道がくっきりと目立つ。

ここを自転車でビューンと走るのは、いかにも気持ちよさそう。

最後のページまで伴走する海が、爽快なサイクリングをお膳立て。

「ちょうちょうなんなん」井上 奈奈 あかね書房

【ざっくりまとめると】
ちょうちょうが羽ばたくと、クマが目を覚まし、驚いたカエルが川に飛びこみ、魚は釣り針に食いつくのを邪魔され、釣りをしていた少年はあきらめて帰途につく。ばったり出会った子馬はびっくりして木にぶつかり、木の上で眠っていたコウモリたちがいっせいに飛びあがり・・・。

【見どころ】
ブルーとピンクとイエローとグレーの世界

【ジャンル】
横スクロール絵本

バタフライエフェクトの結末

描き込まず、シンプルで大胆な筆さばき。色も少ない。なのに、線はきれいに整っていて、カラフル。明るくて美しい絵本。

ブラジルのチョウのたった一回の羽ばたきによって、テキサスでハリケーンが起こるというたとえ話が、バタフライエフェクト。

これはあくまでたとえ話なので、ずいぶん大げさなもので、証明のしようもない。
でも、ほんの微細な差が、予測できない結果をもたらすことはカオス理論の特性として言われていることだ。

この絵本のように、チョウの羽ばたきが冬眠中のクマを起こすことは、まあないだろうと思うけど、羽ばたきとクマの間に奇跡的なきっかけが無数に積みあがれば、そういうこともあるかもしれない。

要するに、この世の現象で、予測できるものはそんなにない。

カオスが計算できることはこの先もないと思うが、どうだろう。
計算できない限り、たとえば天気予報がぴったり合う未来もやってこないに違いない。

ちょうちょうは自分の羽ばたきが自分にどう返ってくるか知り得なかったし、これに客観的な説明もつかない。
当たり前だけど、それが一生というものなのだろう。

「おばあちゃんとおんなじ」なかざわ くみこ 偕成社

【ざっくりまとめると】
おじいちゃんとおばあちゃんの家に遊びに来た、なっちゃん。おばあちゃんと買い物に出かけ、コンビニの前で見かけた猫を追いかけるうちに迷子になってしまった。すぐに追いついたおばあちゃんは、なっちゃんを秘密の場所に連れていく。たんぽぽ畑で、おばあちゃんの子供時代の話を聞き、おばあちゃんにも子供のときがあったことに驚いた。

【見どころ】
リアルだけどやわらかいタッチの絵

【ジャンル】
町なみスケッチ

どこにでもある町の風景

なかざわくみこの絵は線に特徴がある。ちょっとぶれたような線の正体は、削ったわりばしに墨をつけて描いたことにある。

この微妙な線の揺らぎのおかげで、とてもあたたかな感じに仕上がっている。

そして、どこかで見たことがあるような町の風景。不自然なところがなく、それでいて現実よりいくらか美しい。

家の中は見ていて飽きないほど生活感がよく出ている。それをわざとらしくなく、ごく自然な感じで見せているのがいい。

おじいちゃんは、なっちゃんがおばあちゃんによく似ていると言う。
それはもちろん今のおばあちゃんではなくて、こどものころのおばあちゃんのことだ。要するに、おじいちゃんはおばあちゃんの幼なじみ。

町は大きく変わったけど、おばあちゃんのこども時代は町のあちこちで息づいている。

「もみじのてがみ」きくち ちき 小峰書店

【ざっくりまとめると】
ネズミがもみじの手紙をツグミからもらい、自分ももみじを探しに出かける。赤いものを見つけるたび、もみじと思うが、勘違い。リスとヒヨドリといっしょに探してみても、どれもはずれ。あきらめかけて、とぼとぼ歩いていると、やっと一枚のもみじに出会う。ふと、あたりを見ると・・・。

【見どころ】
赤の感動

【ジャンル】
もみじ好き探検隊

小動物たちのもみじ狩り

もみじの手紙とは、冬の知らせのこと。もみじの葉が落ちてしまうと、冬がきて雪が降る。森の動物たちにとって、冬の到来は一大事。

だから、もみじの手紙は冬の訪れを教えてくれる、大切なイベントや行事のようなものだ。もみじを不吉なものとは見ていない。

冬をやり過ごすのは大変だけど、それはそれ、もみじに罪はない。自分たちがやるべきは、冬じたく。

「もみじのてがみ」は何てことのない話だが、動物たちの素朴で美しい生活が切り取られている。
自然と生きることは、生き物にはあたりまえなのだけど、人間には難しくなってしまった。

人間は幸せな方向に進んでいるのか、ちょっとあやしい気持ちになる。もみじの手紙を、拾いもしない気がして。

「メンドリと赤いてぶくろ」安東 みきえ / 作 村尾 亘 / 絵 KADOKAWA

【ざっくりまとめると】
右と左で仲が悪い「ゆうちゃん」の赤い手ぶくろ。庭で干されているとき、右手の手ぶくろと左手の手ぶくろが大げんか。ところが右手の手ぶくろだけ、農家の庭まで飛ばされてしまう。そこには、オンドリのように大声で鳴きたい若いメンドリが、ほかのメンドリたちに責められているところだった。メンドリは右手の手ぶくろを頭にかぶり、オンドリのトサカのようにみせると、これで堂々と大声で鳴けると思った。右手の手ぶくろもその気になったものの、池にうつった自分たちを見てみると・・・。

【見どころ】
赤い手ぶくろをトサカ代わりにかぶるメンドリ

【ジャンル】
手ぶくろの使い道

そもそも何のために生まれてきたのか

手ぶくろの用途はその名のとおり、きっちり決まっている。主人公の赤い手ぶくろも、当然、手にはめるものとしての自分しか知らない。

持ち主が右利きだから右手の手ぶくろが偉い、という短絡的な主張も、ある意味しかたがない。
自分はこうだという思い込みは、そのまま自分をとても小さな可能性の中に閉じこめてしまう。

右手の手ぶくろは風に飛ばされ、メンドリと出会う。そこでトサカになるのだけど、すぐにトサカとしてはイマイチだと気づく。

けっきょく、自分は手ぶくろ以外の何ものでもないと悟るのだが、トサカを経験したおかげで、手ぶくろであることの使命感みたいなものさえ感じられるようになる。

自分のままでいいのと同時に、おなじ手ぶくろとして、右も左も交換可能だ。これは、オンドリのように大声で鳴きたかった、若いメンドリにも言える。

右手の手ぶくろが心の中でメンドリを応援したように、「トサカなんてどうでもいい」のだ。
メンドリが朝の訪れを大声で告げるのなんて、全然アリなのだと。

 

癒やされる絵本を、下の記事で紹介しています。よかったら、どうぞ。

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