【癒やしのおすすめ絵本19選】絵本でプチ現実逃避

  • 2021年3月6日
  • 2023年10月31日
  • 絵本

大人の世界、疲れた。
社会に出ると、どんなに慣れても、窮屈を感じることがありませんか?

ケチャもぐ
そこで有効なのが、プチ現実逃避。

映画、漫画、小説、テレビドラマなど、プチ現実逃避アイテムはいっぱいあります。

そのなかでも、絵本はいちばん効果が大きいと、僕は思います。

この記事では、癒やしの絵本を厳選しました。
気持ちのコリがほぐれること、間違いなしです。

目次

『こたつ』麻生 知子 福音館書店

【ざっくりまとめると】
こたつから見る、大みそかのいそがしい一日。朝ごはん、宿題、大掃除、おせちの準備、昼ごはん、友だち、年越しそば、除夜の鐘・・・。

【見どころ】
こたつ生活をのぞき見

【ジャンル】
浮遊アングル

こたつの定点観測

おしゃれな雑誌で、料理を真上から見おろすアングルの写真をよくみるが、絵本ではめずらしい。

人は前後左右で空間を見るから、真上からのアングルは盲点だ。

自分が住んでる場所でさえ、航空写真をみると発見が多い。

真上から見るような全体像を、人はイメージしにくいようにできてるのかも。
まあ、空も飛ばないし。

この絵本は、こたつの真上から、大みそかの一日を追う。

こたつだけを見ることで、家族の一日の動きがかえってよくわかるし、なんだかとても温かい。

飛ぶように過ぎていく一日が、こたつのまわりだけでも、こんなにバリエーション豊かで楽しげ、というのも定点観測ならではの発見だ。

大みそかの楽しさを表現するのに、これ以上の方法はないかもしれない。

それから、飼い猫の行動が本物らしくていい。
猫も人間以上にこたつが好き。

「木の実とふねのものがたり」小林 由季 ニジノ絵本屋

【ざっくりまとめると】
少女と黒猫が暮らす船に、空から木の実が落ちてきた。
ある晩、木の実が成長し、船に木が生えた。木には赤い実がたくさん。
動物や鳥が集まってムシャムシャ食べていると、船と雨雲がぶつかって・・・。

【見どころ】
メルヘンな船の生活

【ジャンル】
少女と海

ミニシアター系の絵本

黄色が基調のかわいくて美しい絵本。

どの書店にも置いてあるような絵本じゃなく、メジャーかマイナーかというと、マイナーに入ると思う。

映画でいうなら、ミニシアターで公開されるような映画で、個性的で芸術性が高い部類ということが言えるかも。

書店にも、こういうミニシアター系の絵本を取り扱う本屋が、もう少し増えてほしいところだ。

それはともかく、この絵本は絵がすごく魅力がある。
アニメーションでもいけそうだ。

個人的には、3匹のテントウムシが舟を漕いでる絵が好きで、切り抜いて部屋に飾っておきたいくらい。

それから、歌える絵本としても使えて、日本語と英語のバイリンガル絵本になっている。

譜面が読めないので、どんな音楽かわからないけど、小島ケイタニーラブが作詞・作曲してるそう。

トマもぐ
小林由季さんのホームページで、ちょっとだけ動画で聴けるよ。

「いもむしれっしゃ」にしはら みのり PHP研究所

【ざっくりまとめると】
「はらっぱだんち」や「モグラちかがい」や「りんごのき」など、虫たちの町を走る「いもむしれっしゃ」の一日。

【見どころ】
40種類以上の虫たちのバリエーション豊かな生活

【ジャンル】
昆虫ドキュメンタリー

ミクロの町

かわいい絵本といえば、これ。
どのページのどの場面を切りとっても、完璧にかわいい。

文章もあるけど、正直言って、文章に目がいかない。
絵の情報量が多くて、目がいそがしいからだ。

虫や小動物が人間とおなじような生活をしているのが、眺めていて飽きない。
かぼちゃの中をくりぬいて、虫のキオスク「ムシスク」を営業していたり、
カタツムリが郵便屋さんをしていたり(手紙が届くまでいったいどれくらい時間がかかるんだろう)。

繰り返しになるけど、完璧にかわいいので、虫嫌いの人も抵抗ないはず(たぶん)。

トマもぐ
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「はなびのひ」たしろ ちさと 佼成出版社

【ざっくりまとめると】
花火大会の日、タヌキのぽんきちが花火職人のおとうちゃんに弁当を届けることになった。まだ明るいけど、ぽんきちが出かけていくのを見た町の住民たちは、花火大会がもう始まると思って慌ててついていく。

【見どころ】
絵の具で魅せる、みごとな花火

【ジャンル】
アニマル江戸時代

花火屋の息子ぽんきちは町の有名人

この絵本はすごくシンプルな作り。
お父ちゃんに握り飯を届けるぽんきちが、町を歩いていくと、みんながついてくる。

髪結いとか、湯屋とか、江戸の町の住民たち(動物)がたくさん。
絵本をみているほうも、ぽんきちについていくような気持ちになり、最後はみごとな筆さばきの花火がドーン。

始まりから終わりまで、流れるようにスムーズな絵本だ。
それに、いつもびっくりしたような顔つきのぽんきちが愛らしい。

後ろにたくさんの住民がついてきてるというのに、全然気づかずに道草。
そんな様子をみてると、「なんてかわいい子ダヌキじゃろうか」という温かい気持ちにもなるというものだ。

「とんでもない」鈴木 のりたけ アリス館

【ざっくりまとめると】
少年はサイに憧れ、サイはウサギに、ウサギはくじらに、くじらはキリンに、キリンは鳥に、鳥はライオンに、ライオンは人間の子供に憧れる。でも、憧れるほうとしては、それなりの不満がある。

【見どころ】
夜空の下、家々の煙突から顔をだすキリンたち

【ジャンル】
おしゃべり動物ファンタジー

ユニークな不満くらべ

作者の鈴木のりたけさんの絵には、いつも癒やされる。
本格派の写実的な絵だけど、やわらかくてゆるいのだ。

アイディアがキレキレで、どのページもインパクトがあるし、遊びが詰まってる。
リアルな絵で、クスッと笑えるシーンを描くのがほんとにうまい。

ところで、この話は人間のことだ。
人って、他人をうらやましがることが多い生き物。

でも大抵は、だれもがそれなりに大きな悩みを持っていて、憧れた相手の人もまた、他の人になりたがっていたりする。
けっきょく、自分のままでいたほうがずっとマシ、ということも多々あるみたい。

「ランスロットのはちみつケーキ」たむら しげる 偕成社

【ざっくりまとめると】
ロボットのランスロットが四つ足ロボットをDIY。はちみつケーキを買いに行かせるけど、いろんな邪魔が入って買い物は失敗。しかたなく、ランスロットは仲間たちと、小さな火山ではちみつケーキを作ることに。

【見どころ】
鍋がわりの火山

【ジャンル】
グルメアクション

ケーキの大噴火

ロボットのランスロットは、オズの魔法使いのブリキの木こりみたい。
熊のパブロや、トラ柄ネコのモンジャたちと歩いてる雰囲気も、オズの魔法使いのようだ。

ランスロットたちの暮らす町は、砂漠みたいにガランとしていて、家はかまくら風。
そういうところは、スターウォーズの世界みたいでもある。

この絵本はデジカメと画像ソフトが使われていて、切り絵のように奥行きがあって、3次元の世界になっている。
あえてやってるのは明らかだけど、登場人物たちの硬い動きが、3次元世界にぴったり。

人形たちが動きだしたような愛らしさがある。
そして、性格がおおらかなランスロットたち。

はちみつケーキにありつけるまでの右往左往に、なんだか励まされる。

「ペンギンきょうだい そらのたび」工藤 ノリコ ブロンズ新社

【ざっくりまとめると】
ペンギンの3姉弟が、飛行機と気球を乗り継いで、雪山のおじいちゃんの家をめざす。

【見どころ】
空港のレストラン・売店広場

【ジャンル】
旅番組

ぶらり乗り継ぎ空の旅

心がすさんで、たとえ気分がカミソリ状態のときでも、工藤ノリコさんの絵をみれば、急速で和む。
とぼけた表情の動物たちが、いっちょまえに人間と同じ活動をしているのが、じわじわおもしろい。

メルヘンな世界だけど、絵はけっこう緻密。
それにサイズ感が厳密なので(たとえば、飛行機と乗客のサイズの差とか)、メルヘンの世界をリアルにみせている。

おすすめは空港のレストラン・売店広場で、こういう場面が工藤ノリコさんの真骨頂だ。
ゆるーい群集劇が、ここにある。

トマもぐ
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「あるかしら書店」ヨシタケ シンスケ ポプラ社

【ざっくりまとめると】
本にまつわる本の専門店「あるかしら書店」は、あらゆる本探しに付き合ってくれる本屋。
ちょっとめずらしい本、本にまつわる道具、本にまつわる仕事、本にまつわるイベント、本にまつわる名所、本そのものについて、図書館・書店について、といったどんな注文にも答えてくれる。

【見どころ】
奇想天外な本のオンパレード

【ジャンル】
裏メニュー

ありますよ!

「ちょっとめずらしい本」や「本にまつわる道具」など、お客さんが持ちこんでくる相談自体は、とりたてて変わったところはない。

店主がその返しで持ち出してくる本が変わってるのだ。

月明かりでしか読めない本、書店を会場にした結婚式の本、雪のように本が降る村についての本、というような地味に夢がある本を紹介してくれたりする。

まあ、「あるかしら書店」という店の名前からして、お客さんに期待させるところはあると思うが、出てくる本は予想を上回る変な本ばかり。

ほとんどの相談に「ありますよ!」と出してくれるのは、気持ちがいい。

それもあるの? という驚きと、出てくる本の意外さが、うれしいどころか、ちょっとしたセラピーにもなるんじゃないかと思うくらい。

本の処方箋という言い方があるけど、「あるかしら書店」の店主は薬剤師のようでもある。

トマもぐ
ヨシタケシンスケさんは「絵本作家図鑑」でも紹介してるよ。
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「おかっぱちゃん」Boojil(ブージル) あかね書房

【ざっくりまとめると】
おかっぱちゃんは絵の具を持ってお出かけ。
クマさん、ワニさん、キツネさんに似顔絵をせがまれて、描くたびにお返しをもらう。
帰り道、夕暮れ時の雲がお母さんにみえてきて、似顔絵を描いてから帰宅。

【見どころ】
似顔絵のお代は物々交換

【ジャンル】
似顔絵パフォーマー

さすらいの小さな似顔絵作家

作者のメキシコひとり旅の経験がもとになっている。

似顔絵を描くかわりに、お客さんが持っている物をもらう、ということをやっていると、大勢の人が集まってきたという。

町で似顔絵を描く人はめずらしくないと思うけど、彼女には人を集める何かがあったのだろう。

これがみごとにブランディングに成功して、以後、おかっぱちゃんとしていろんなビジネスを展開できている。

ブージルさんもここまで伸びるとは思ってなかったに違いない。

絵は勢いがあって、色彩が豊か。

キャラクターたちは間違っても美形とは言われない、そのちょっと崩れた感じの愛らしさが絶妙なあんばいだと思う。

「つちたち」ミロコ マチコ 学研プラス

【ざっくりまとめると】
根っこのまわりの土たち、ミミズにかき混ぜられる土たち、恐竜に踏まれる土たち、雪の下で眠る土たち、太陽に起こされる土たち。

【見どころ】
ページいっぱいの表情つきの土たち

【ジャンル】
土のヒストリー

大地の主役

土たちのひとつひとつに顔が描かれることで、ページから異様なエネルギーが出ている。

意外と熱い、ホットな土たち。

人間の目にはほとんど動きがないように見える地中だが、土たちは動物のように敏感だ。

根っこはひんやりして気持ちよく、ミミズはくすぐったい。
動物的な率直な反応に身をまかせる土たち。

ノリがいいとも言える。
いつもノリノリで、大地の動きに応えている。

恐竜の時代でハッスルして、氷河期にたっぷり眠り、ふたたび太陽に起こされてみると、新しい植物や動物がいる。

大地である土たちは、まだまだ元気だ。
土たちにとって、人間も通過点にすぎないかもしれない。

「ポッコとたいこ」マシュー・フォーサイス 青山 南 / 訳 化学同人

【ざっくりまとめると】
カエルのポッコは太鼓をもらって以来、演奏に夢中。家の中があんまりうるさいので、お父さんは外でやるようにポッコに言う。
言われたとおり森の中で太鼓を叩きながら歩いていると、動物たちが楽器を持ってついてくる。
どんどん動物は増えて、音楽隊はやがてポッコの家をなぎ倒し、お父さんとお母さんを連れ出して森へむかう。
先頭を行くのがポッコだと気づいたお父さんは、感心するのだった。

【見どころ】
森のパレード

【ジャンル】
天才ドラマー

天才のこどもを持った親の災難と、誇らしげな気持ち

始まり方がちょっとひねっていて、短編小説のようだ。

「おとうさんと おかあさんの いちばんおおきな まちがいは、
女の子のポッコに、たいこを あげたことでした。」

以前にもパチンコやラマや風船をあげたりしたが、太鼓がいちばんの間違いだったという。

この間違いというのは、ポッコがハマって日がな一日うるさいから、だけでもなさそうだ。

なにしろ、ポッコに太鼓の才能がありすぎて、このカエル一家は家を失う運命にあるから。

シュールな展開に、カエルのちょっと間のぬけた表情がぴったり。

お父さんにあまりうるさくするなと言われて、ポッコは森の中を静かに歩く。
実際のところ、森は静かじゃない。
木々や虫など、動植物が出す音はけっこう大きい。

でも、ポッコは静かすぎると断じる。
ポッコの耳は太鼓の打ちすぎで、ちょっと鈍くなってるのかもしれない。

それはともかく、この天才ドラマーは、森じゅうの動物たちを引きよせて、楽隊というかパレードを急ごしらえしてしまう。

途中、音楽に魅せられてついてきたオオカミが、ラッパを吹きながら歩くウサギをつい食べてしまうというハプニングも起こる。

これがちょっとした注意で済んでしまうことも含め、かわいらしいけど、どこか狂気のある雰囲気がこの絵本の魅力だ。

狂気といっても、平和ボケしてない動物たちにはよくあることにすぎないだろうけど。

「きこえる?」はいじま のぶひこ 福音館書店

【ざっくりまとめると】
シルエットと言葉で、音を聴く絵本

【見どころ】
余白たっぷりのシンプルな絵

【ジャンル】
心で聴く

耳をすませばきこえる?

たとえば本屋の本棚で見つけると、美しい表紙なので、手にとりたくなる絵本だけど、立ち読みにはむかないと思う。

この絵本はぱらぱらとめくっても、良さが伝わりにくい。
時間のあるときに、どこか静かな場所で、ひとりきりで読むのに向いている。
シンプルな文字とシルエットだけで、音を聴こうというのだから。

中には、現実では聞きようがない音もある。
花がひらく音や、星が光る音。
この絵本だから聴こえる、ということがあるかもしれない。

ところで、試しに文字を隠してみると、文字の効果が思いのほか大きいことがわかる。

文章も絵もぎりぎりまで削ぎ落とされ、どちらが欠けても成り立たない。

すべては耳をすますため。

「ぼく モグラ キツネ 馬」チャーリー・マッケジー 川村 元気  / 訳 飛鳥新社

【ざっくりまとめると】
「ぼく」はモグラと出会い、モグラの賢者のような話を聞く。そして、2人はワナにかかったキツネを助け、次に馬と出会う。
4人は旅を続け、人生や愛について語り合う。

【見どころ】
ドローイングで表現された、淡白だけど美しい絵

【ジャンル】
スケッチブック

動物たちが語る格言集

男の子が、得体の知れない黒いものに「こんにちは」と話しかけるところから、始まる。
黒いものはモグラで、服を着たモグラ。

男の子はモグラとそのまま旅に出るのだけど、理由は書かれてない。

「おおきくなったら、なにになりたい?」とモグラに聞かれて、「やさしくなりたい」と答える少年。

大人びた意見というか、やさしくなるのが難しいことを、日々感じてるらしい。

あとで出会う馬は「やさしさに勝るものはない」と言う。「すべてのうえに、しずかに存在している」

陳腐な言葉のようでも、馬が言うとちがう。
いろんな思惑たっぷりの人間が言っても、あまり説得力はない。

それに、人間には照れくささみたいなものがついてまわる。。

この絵本がドローイングで、さも書き殴った手帳のような体裁をしているのは、そのあたりが原因かもしれない。

「やすみのひ」小池 壮太 ブロンズ新社

【ざっくりまとめると】
道具たちの休みの日。目覚まし時計は昼過ぎまで寝る。ホウキは銭湯でシャンプー。貯金箱は好きなものをたくさん買う。
コップや皿やスプーンやフォークは? お化けは? 洗濯ばさみは? 靴下は?

【見どころ】
洋画家が描く、油絵の絵本

【ジャンル】
休日の過ごし方

道具たちの法定休日

画家が描く絵本は、一ページ一ページの完成度が高い。
画家の場合、連作もあるけど、基本的には一枚で完成させるのが仕事だから当然かもしれない。

どのページも単独で部屋に飾ることもできそうだ。

それに、絵本ならではの道具たちのキャラ化が、この本格的な絵の中にあるとユニークで、絵本と絵画の融合という感じがする。

静物画に、いたずら心で遊びを加えたというような。

それにしても、道具のほとんどがその道具にふさわしい休日の過ごし方をするなか、靴下だけが脈絡がない。

作者の中ではあるのかもしれないけど、それはともかく、脈絡のない靴下の存在が、この絵本には欠かせない魅力となっている。

「くろいの」田中 清代 偕成社

【ざっくりまとめると】
女の子はいつもの帰り道で、見たことのない黒い生きものを見かけるようになった。ある日よく観察してみたところ、ほかの人には見えてないことがわかった。声をかけてみると、黒いものはどこかへ歩きだし、ついて行ったら一軒の古い平屋にたどり着いた。空っぽの押し入れから屋根裏に上がると、大きな木の枝や根っこがひろがる、だだっ広い空間があらわれる。椅子のブランコや木のすべり台で遊び、毛むくじゃらの生きものの背中で眠って、起きたら帰る時間。

【見どころ】
劇画タッチの絵本

【ジャンル】
あたたかな怪談

異世界の住人

漫画っぽい、モノクロで劇画タッチの絵。
そこへ、あきらかに異物な生きものがちょこんと座っているのがこの絵本のポイントだと思う。

ホラーに傾きそうな雰囲気があるけど、そういう展開でもない。
「不思議の国のアリス」や「となりのトトロ」の仲間と言えそうな絵本だ。

この黒い生きものは、主人公の女の子にしか見えないらしい。こどもなら誰でも見えるということではないようだ。

ほかのこどもがもし見えたとしても、怖がって彼女みたいに話しかけようとは思わないだろう。

もし話しかけたとしても、ついて行くまではしないはずだ。
知らない人について行くなという大人の教えを思い出すまでもなく、ああいう黒い生きものに関わるのはやばそうだと思うに違いない。

女の子はそういった警戒心がなく、「不思議の国のアリス」のアリスと同じように無防備。
不思議な展開をすんなり受け入れるところに、アリスなみの器を感じる。

こどもは日々こういう体験をしている、とも言える。
こどものまだまだ未熟な脳、未熟な言語の世界では、こういうものが日常に入りこんできてもおかしくない。

「お正月がやってくる」秋山 とも子 ポプラ社

【ざっくりまとめると】
町で工務店を営むなおこさんは、12月の半ばをすぎると正月の準備にいそがしい。商店街でしめ縄や門松など正月飾りを売るお店を出すからだ。仕事のほかにも大掃除や買い物で大いそがし。なおこさんの家族は、正月に獅子舞をやることにもなっている。

【見どころ】
パノラマ写真のようにたっぷり広がりのある絵

【ジャンル】
正月ドキュメンタリー

正月の雰囲気

ワイド画面の、臨場感のある絵のおかげで、正月の雰囲気がよく伝わってくる。

ヒトの顔はわりとシンプルにあっさり描いているいっぽうで、物や風景が細かく描きこまれている。写実的な絵が好きな人にはたまらない絵本だと思う。

作者のあとがきによると、「東京」でいろんな人たちが登場する絵本を作ろうとしていたが、壮大すぎて切り口が見つからなかったらしい。

そんなとき、近所の「なおこさん」の存在に気づき、彼女の日々を描くことを思いついたという。

一年のうち、正月をテーマに持ってきたというのは、なおこさんの正月がそれだけ魅力的だったからだろう。

それは、正月の飾りを販売したり、獅子舞をしたり、なおこさん一家の正月の関わり方が、一般より深いところにあると思う。

多くの日本人にとって、正月は特別なものだ。日本中で、日常とは異なる独特の空気が流れる。
そんな特別な日々の空気をおさめた絵本。

「3人のパパと3つのはなたば」クク・チスン 斎藤 真理子 / 訳 ブロンズ新社

【ざっくりまとめると】
宅配業者のキム運転手と、小児科医のキム先生、建設会社のキム課長、3人のキムさんの一日。いそがしい仕事の合間に、3人とも花束を買う。特別な日なのだが、いつもより忙しくて、なかなか仕事が終わらない。やっと仕事を終えると、3人がむかったのは幼稚園だった。夜、子供たちの音楽会がひらかれる。

【見どころ】
横からのぞいた生活風景

【ジャンル】
花束ミステリー

花束のゆくえ

まったく違う業種の仕事をしている3人が、どうつながっていくのかを追いかける絵本。

横からみた韓国の慌ただしい生活は、眺めているだけで楽しい。
たぶんソウルなどの都心なのだろうけど、建物や店舗、車や通行人にあふれていて、パリのように活気がある。

見やすくてわかりやすい絵は、色がやさしくてあたたかい。おじさん3人を美化することなく、ごく普通のおじさんに描いているのも好感がもてる。

作者のクク・チスンは女性だが、おじさんらしいおじさんを描くのがうまい。

北欧などの仕事の環境とは大きくちがう、昔ながらの長くていそがしい一日。

どうにか仕事を切りあげて子供の音楽会にいそぐ3人のキムさんが、やけに愛おしくなる。

「水の絵本」長田 弘 / 作 荒井 良二 / 絵 講談社

【ざっくりまとめると】
詩人の長田弘が生前に書いた詩に、荒井良二が絵を描きおろした作品。テーマは水。

【見どころ】
水について考察する美しい詩と、自由でみずみずしい絵

【ジャンル】
ポエム絵本

詩人と絵本作家のコラボ

長田弘はいつもやさしい、やわらかな言葉で詩を書く。谷川俊太郎のようなアクロバティックな飛躍はあまりないが、谷川俊太郎よりもポップ。

本好きは一度はハマったことがあるのではないかと思う。

石井好子の『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』という素敵な本があるが、僕の中では長田弘の世界観はこの本とおなじイメージだ。
じっさい、料理の詩も書いている。

水という、あたりまえにそこらにあるけど、きわめて尊い存在。

長田弘の詩だけでも強度があるが、荒井良二の絵がまたいい。
水というとりとめのないものを表現するのに、うってつけの二人だと思う。

『「いる」じゃん』 くどう なおこ / 作 松本 大洋 / 絵 スイッチ・パブリッシング

【ざっくりまとめると】
詩人・くどうなおこと、漫画家・松本大洋の母子コラボ

【見どころ】
80歳をすぎた人が書いたとは思えないほど若々しい言葉

【ジャンル】
ポエム絵本

地球に暮らすとは

地球に暮らす以上、人だけが仲間というわけじゃない。友だちや家族だけが、仲間ではない。

さびしいときは、そのことを思い出すべき。

おはようと言えば、太陽が返してくれる。雲も風も昆虫も、返してくれる。

人とつながれないときも、山や小川や星とつながれる。

地球に暮らすとは、そういうこと。

 

下の記事では、思わず手にとりたくなるような、絵がすてきな絵本をご紹介しています。

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