出版年は古いのに、いまだに書店で最新の絵本といっしょに、ふつうに棚にならんでいる絵本があります。
(増刷をくり返してますので、ぴかぴかの新品です)
いわゆる名作絵本、定番絵本、ロングセラー絵本と呼ばれる作品たちです。
親がこどものときに読んだ絵本を、今のこどもたちも読んでる、なんてことが普通にあるのが絵本です。
今回、長生きの絵本のなかでも、とくにおすすめしたい名作絵本を厳選しました。
新しい絵本が好きな方は、下の記事がおすすめです。2021年に出版された絵本から、おすすめを厳選しました。
トマもぐトマもぐです。図書館司書を15年以上。2021年は、福岡・太宰府の本屋「ブックスアレナ」さんで絵本の選書を担当しました。本屋さんの本棚にならぶ絵本を選書するので、責任重大です。日々、リサー[…]
「すてきな三にんぐみ」トミー・アンゲラー 今江 祥智 / 訳 偕成社
【ざっくりまとめると】
黒マントのどろぼう三人組は、夜になると強盗をくりかえし、たっぷりお宝をためこんだ。
ある日、いつものように馬車を襲ってみると、みなしごの女の子が一人で乗っているだけ。
隠れ家に連れ帰ったところ、女の子にお宝の使い道をたずねられ、片っぱしから捨て子やみなしごを集めてくることに。
【見どころ】
青と黒の夜
【ジャンル】
クライムヒーロー
ロビン・フッド部
この三人組には謎が多い。
どうして強盗するようになったのか、三人の関係は何なのか、もともと何をしていた人たちなのか。
そんなにお金に執着してるようでもなく、何しろ、みなしごの女の子ティファニーに言われるまで、使い道を考えたこともなかったくらいだ。
ロビン・フッドのように、金持ちから奪って貧しい人たちに配るというつもりもなかった。
確かなのは、強盗の腕前と、相手に直接的な危害を与えないルールのようなもの。
そして謎といえば、三人組の性別はどうだろう?
この三人組は、女性である可能性も十分にある。
(おじさんと訳されているところがあるが、原文にはない)
まあ、男でも女でもどちらでもいいのだろうけど、三人組が女性だと考えると、すっきりする部分も多い。
平和的な強盗のやり方、宝石や指輪や金銀財宝を愛でるところ、たくさんの子供を集めて育てようという考え、といったあたり。
もちろん男でもあり得るのだけど、それにしても、と思う。
ためこんだお宝を使って、捨て子やみなしごをどっさり集めて、みんなが住める城を買う。
噂が広まって、赤ん坊がさらに城に集められていく。
こんなことができるのは女性だと思うのだけど、どうでしょう?
「まよなかのだいどころ」モーリス・センダック じんぐう てるお / 訳 富山房
【ざっくりまとめると】
真夜中、男の子のミッキーが騒音で目をさまし、怒鳴ったら「まよなかのだいどころ」に落っこちた。
パン屋さんたちはミッキーをミルクと間違え、粉といっしょにこねてしまう。
ミッキーは焼かれる前に飛びだして、パンのねり粉で作った飛行機でミルクを探しに。
やがて大きなミルク瓶をみつけて、ミルクケーキが完成。
【見どころ】
ちょっと不気味なパン屋のおじさんたち
【ジャンル】
真夜中のパティシエ
ミルクケーキとミッキーケーキ
ミッキーは男の子の名前。
ミルクと響きが似ているから、パン屋さんにミルクと間違われる。
外見じゃなくて、名前で判断するパン屋のおじさんたちは、陽気な感じなのだけど、ちょっと不気味でもある。
何しろ、パン粉にミッキーを混ぜて、オーブンで焼こうとするのだから、「まあ、陽気なおじさんたちね」じゃ済まない。
悪気はなく、おいしい朝のミルクケーキを作ることにひたむきなだけ、というのも怖い。
とはいえ、ミッキーもぶっ飛んでいるので、問題なし。
パン粉で飛行機を作ってミルク瓶をみつけ、頭からダイブする。
ミルク探しを成し遂げたあとは、すっ裸でコップをかぶって「コケコッコー」と叫ぶのだ。
この子なら、パン屋のおじさんたちも怖くない。
「まよなかのだいどころ」は、調味料の高層ビル群でできた、真夜中だけど明るい、眠らない場所だ。
そこには、毎日、朝のケーキを作っている、働き者のパン屋さんたちがいる。
ほんとは、ミッキーみたいに、邪魔しちゃいけないのかも。
ミッキーは無事に帰ってきたけど。
「つきのぼうや」イブ・スパング・オルセン やまのうち きよこ / 訳 福音館書店
【ざっくりまとめると】
「おつきさま」は池に映った、もうひとりの「おつきさま」が気になり、「つきのぼうや」に連れて来てほしいとお願いする。
「つきのぼうや」はカゴをひとつ持って、空を降りていく。
雲も飛行機も木の上も通りすぎ、海に飛びこんだ。
海の底で手鏡をみつけ、小さな月と勘違いした「つきのぼうや」。それを「おつきさま」に送り届けたところ・・・。
【見どころ】
男の子が空から降ってくる
【ジャンル】
生身スカイダイビング
スローな落下
デンマークの国民的画家イブ・スパング・オルセンの代表作。
このブルーの縦長の絵本は読んだことはなくても、一度は目にしたことがあるんじゃないかと思う。
1975年の絵本だけど、新刊書店でもいまだによく見かけるほど、根強い人気。
ブルーの色合いと、めずらしい細長い形状と、月と男の子の愛らしいイラストがひときわ目をひく。
「つきのぼうや」といっても、見た目はふつうの人間の男の子。
そんな男の子が空中をのんびり落下しながら、地上の人たちとちょっとしたコミュニケーションをとるというのが、ほどよくぶっ飛んでる。
ところで、「おつきさま」は水面や鏡に映った自分が、ほかならぬ自分とは夢にも思っていない。
自分と他者という区別をつける必要が、社会生活のない「おつきさま」には必要ないからかもしれない。
「10にんのゆかいなひっこし」安野 光雅 童話屋
【ざっくりまとめると】
10人のこどもたちが左のページのお家から、右のページのお家へ順番にひっこし。
【見どころ】
美しい家
【ジャンル】
数の絵本
かわいいお引っ越し
部屋のサイズにくらべて、ちょっと大きめのこどもたち。
こどもたちだけで住んでいる、こどものための家ということなのかもしれない。
「美しい数学」というシリーズの絵本で、数をかぞえて遊べるように工夫されている。
左ページに今住んでいる家の断面、右ページに引っ越し先の家の外観。
家の断面には、こどもたちの生活ぶりがみえる。
ページをめくると、こんどは左ページが住んでいる家の外観で、右ページが引っ越し先の家の断面に変わる。
家の窓はいくつか穴があいていて、前のページの家の内部がみえるようになっている。
ページをめくるたび、左の家には何人いて、右の家にすでに何人が移ったか、考えさせる仕組みだ。
大人は退屈するかというと、そうでもない。
安野光雅の美しい絵が、眺めてるだけでも十分楽しいから。
「うみべのおとのほん」マーガレット・ワイズ・ブラウン / 文 レナード・ワイズガード / 絵 江國 香織 / 訳 ほるぷ出版
【ざっくりまとめると】
子犬のマフィンは耳がよくて、なんでも聞いたことがあるのが自慢だが、海だけは聞いたことがなかった。
ボートに乗って航海に出てみたところ、海はいろんな音に満ちている。
マフィンはそのすべてを聞いたかどうか。
【見どころ】
子犬と船長の船上生活
【ジャンル】
海の日常
海を聞くとは
この絵本の原書の初版は、1941年。
第二次世界大戦の頃に出版された、長生きの絵本だ。
マーガレット・ワイズ・ブラウン(文章を担当)とレナード・ワイズガード(絵を担当)の定番コンビ。
マーガレット・ワイズ・ブラウンが42歳という若さで亡くならなければ、もっとたくさんの名作が生まれていただろうと思う。
やさしい語りに、グリーンとオレンジを基調としたイラストがついている。
主役は、炭で塗りつぶしたような真っ黒な子犬マフィン。
自慢の耳で、海を聞いてやろうとボートに乗りこむ。
陸ではどんな音も聞いてきたと自負するマフィンも、海は勝手がちがう。
陸上生物には限界がある。
ましてマフィンは海が初めてらしく、さすがの犬の聴覚も、海には太刀打ちできないようだ。
そのことを暗に示すように、マフィンは海に落っこちてパニック。
「おやすみ おやすみ」シャーロット・ゾロトウ / 文 ウラジミール・ボブリ / 絵 ふしみ みさを / 訳 岩波書店
【ざっくりまとめると】
いろんな眠りのかたち。クマ、ハト、魚、ガ、馬、アザラシ、シラサギ、バッタ、カメ、イモムシ、クモ、犬、子猫。
【見どころ】
美しい夜のイラスト
【ジャンル】
個性豊かな眠り
眠らない動物はいない
あらゆる動物は眠る。
魚だって、泳ぎながら眠ったり、水草に隠れて眠ったりする。
見た目からは分かりにくいけど、虫も眠る。
眠らないと頭の働きや体の動きが鈍くなるし、強制的に眠らせなかったら、死んでしまう。
あらゆる生き物にとって、眠りが重要なことはわかる。
でも、人生の多くを眠りに費やすように設計されている仕組みが、不思議といえば不思議。
人間は一日に7、8時間くらいだろうか。
人生のおよそ3分の1を眠ってすごすと言われている。
それくらい眠らないと、脳も休まらない?
そもそも、脳は眠っている間も働いてるらしいし。
ともかく、眠りは不思議だけど、それが生きるということでもある。
生きているから、眠れる。あたりまえだけど。
「ゆきだるま」レイモンド・ブリッグズ 評論社
【ざっくりまとめると】
大雪の日、少年は大きな雪だるまを作った。夜になると、雪だるまが動きだし、少年は家に招き入れる。好奇心いっぱいの雪だるまを案内してまわり、遊んですごす。ごはんを食べたあと、今度は雪だるまが空を案内してくれる。吹雪の中、宮殿のある街の上空を飛ぶ。ところが朝日がさしはじめ、いそいで家に帰って元の場所で別れた。少年が一眠りして雪だるまに会いにいくと・・・。
【見どころ】
アクティブな雪だるま
【ジャンル】
サイレント絵本
雪だるまの短い一生
初版は1978年。最初から最後まで文字がないので翻訳の手間がなく、日本版も同年「ゆきだるま」というタイトルで出ている。
漫画のような細かいコマ割りで、登場人物のちょっとした動きまでも丁寧に表現している。
寒い日を寒そうに描くからこそ、暖かそうな行為がきわだつ、というのがレイモンド・ブリッグズはうまい。
雪だるまを作る合間のティータイムとか、見ているだけでほっと温まる。
この絵本の雪だるまは、丸い雪のかたまりを重ねただけのシンプルなものと違い、より人間に似せて作られている。この少年にとっての雪だるまは、ヒト型の大人であるらしい。
でも雪だるまからすれば、何もかもが初めてだから、大きな子供みたいなものだ。少年がいろいろと面倒をみてやらないといけない。
雪だるまはお返しに、外の世界を案内する。もとは空を舞っていた雪だから、外にくわしいのだろう。
だれもがご存じのとおり、雪だるまはあっという間に溶けてしまう。寿命は短い。
短いけど、ワクワクする体験が、この雪だるまと少年の一夜のできごとに凝縮されている気がする。
絵がすてきな絵本を探してるけど、なかなか見つからない 探すにも多すぎるし、本屋とか図書館に行くの面倒 個人経営のおしゃれな書店に置いてあるような絵本を探してるつい手にとってしまうほど、絵がすてきな絵本をご[…]