こどもの絵本の好みは読めたり読めなかったりします。
ぜったい好きだろうと思って買ってきた絵本が全然読まれないこともあるし、なんとなく図書館から借りてきた絵本が大ヒットすることもあります。
今回ご紹介する絵本は、少なくとも我が家の4歳の娘に大ヒットした13冊です。
まだ字は読めないけど、セリフを暗記するほど。
- 1 「あしにょきにょきにょき」深見 春夫 岩崎書店
- 2 「うたこさん」植垣 歩子 佼成出版社
- 3 「こけこけコケコッコー」にしはら みのり PHP研究所
- 4 「おほしさま」たてもと みちこ 教育画劇
- 5 「れいぞうこのよこのおく すみっこのかくれんぼ」うえだ しげこ 教育画劇
- 6 「ばあちゃんのおなか」かさい まり / 文 よしなが こうたく / 絵 教育画劇
- 7 「おばけのてんぷら」せな けいこ ポプラ社
- 8 「ぼくんちカレーライス」つちだ のぶこ 佼成出版社
- 9 「ピヨピヨ スーパーマーケット」工藤 ノリコ 佼成出版社
- 10 「ちかてつ もぐらごう」大森 裕子 交通新聞社
- 11 「かぼちゃのすーぷ うまうまううう!」もりなが あけの ニジノ絵本屋
- 12 「ぼくらはいけのカエル」まつおか たつひで ほるぷ出版
- 13 「天女銭湯」ペク・ヒナ 長谷川 義史 / 訳 ブロンズ新社
- 14 「まんぷくよこちょう」なかざわ くみこ 文溪堂
- 15 「みち」さいとう しのぶ ひさかたチャイルド
- 16 「ぽかぽかぐ〜ん」角野 栄子 / 作 よしむら めぐ / 絵 小学館
「あしにょきにょきにょき」深見 春夫 岩崎書店
【ざっくりまとめると】
ポコおじさんが庭で拾った豆を食べると、左足がにょきにょき伸びて巨大化。足は伸び続けて町中をめぐり、むこうからやってきた暴れん坊の足と対決。
【見どころ】
町を埋めつくすポコおじさんの左足
【ジャンル】
モンスター足パニック
スーパーヒーローな足
ほのぼのとした絵本だけど、ヒーローものとして読むこともできる。
空から降ってきた豆の力で、主人公の足は巨大化し、悪者の足と対決する、というような。
とはいえ、内容はのほほんとしたもので、そもそも空から落ちてきた豆を食べるのが、まずおかしい。
そしたら足がぐんぐん大きくなって伸びていくのだから大変なのだけど、ポコおじさんは「ありゃりゃ」の一言。
足は家を飛びだしてポコおじさんの視界を離れると、意思が芽生えたように、障害物を避けながら伸びていく。
そして、いかにも悪役の足(靴下に穴があいてる)とぶつかり、人類に見守られるなか戦いが繰り広げられるという、わかりやすいような、よくわからないような、シュールな展開だ。
漫画のような絵がこのお話にぴったりで、読んでると心がなごむ。
「うたこさん」植垣 歩子 佼成出版社
【ざっくりまとめると】
歌好きの、一人暮らしのうたこおばあさんは、食器や台所道具と仲良し。ある日うたこさんが病気になって寝込んでしまうと、心配になった食器たちは自分たちでおかゆを作ってあげることに。
【見どころ】
にぎやかなダイニングキッチン
【ジャンル】
全自動クッキング
キッチン用品に好かれる人
1ページにキャラクターがたくさん、ごちゃごちゃしてるのが好きな人におすすめ。
しかもみんなあちこちで、それぞれ勝手なことをぺちゃくちゃお喋りしてるのが、この絵本の特色でもある。
読み聞かせの場合、このたくさんの吹き出しのセリフをどこまで読みあげるか、にちょっと工夫がいるかも。
3つか4つのセリフを取りあげるか、適当に内容をまとめて2つほどセリフを作るか、というくらいがちょうどいいみたい。
この話、すべてうたこさんの空想というか、フェティッシュ(物に対する偏愛)と言えなくもない。
(映画「アメリ」を思い出す)
ヒト以外のものが保護してくれるという安心。
「こけこけコケコッコー」にしはら みのり PHP研究所
【ざっくりまとめると】
ニワトリの形をしたコケのコケコッコーと、カエルのケロロが植物の世界を散歩。行く先々で散歩仲間を増やしながら「きのねモール」へ。
【見どころ】
きのねモールのショップの顔ぶれ
【ジャンル】
コケウォーク
植物の都市
娘がこよなく愛する絵本。
好きすぎて、毎回、4回も5回も連続で読まされるほど。
作者の性格なのか、絵はとても繊細で、隅々まで丁寧に仕上げてるのがわかる。
だから密度がある。
たぶん相当な労力だろうけど、この密度のおかげで、どのページも見てて飽きない。
植物の世界は、イコール虫や小動物の世界でもある。
たいていの子供はこういうのが好き。
少なくとも、うちの娘はダンゴムシを愛してるから、この絵本の世界が楽しくてたまらないみたい。
こどもに愛される、にしはらみのりの絵本の魅力どんな絵本作家さん?福岡在住の絵本作家、にしはらみのりさん。2007年に「いもむしれっしゃ」でデビューして以来、ゆっくりペースで絵本を刊行しています。絵だけを担当した「[…]
「おほしさま」たてもと みちこ 教育画劇
【ざっくりまとめると】
こぶたちゃんが星型クッキーを作ってると、匂いに誘われて小鳥がやってきた。星は食べられるものと思った小鳥は、どんな味がするのかワニくんに聞いてみる。わからないワニくんは牛さんへ、牛さんはうさぎくんへ、うさぎくんは熊さんへ、熊さんはチョウチョさんへ、チョウチョさんはひつじくんへ。みんなわからないので、食べに行くことに。
【見どころ】
カラフルな動物たち
【ジャンル】
アニマルファンタジー
星の味
カラフルでかわいい切り絵の絵本。
動物や花や大地や雲、樹木や葉っぱなど、どれも現実からかけ離れた色で描かれている。
こどもが塗り絵したような大胆な色づかい。
切り絵といえば、せなけいこ。
せなけいこのめがねうさぎシリーズはちょっと怖いところがあるけど、こどもは大好き。
切り絵って、ぬいぐるみのような、ちょっと生気を欠いた面が怖かったりする。
「おほしさま」は、せなけいこの絵本に似てる気がする。
というか、かなり影響受けてるんじゃないかと思う。
でも全然怖くない。
温かみが出るほどに、カラフルでファンタジックな世界を徹底的に作りあげてるからだと思う。
「れいぞうこのよこのおく すみっこのかくれんぼ」うえだ しげこ 教育画劇
【ざっくりまとめると】
冷蔵庫でお隣どうしのマヨネーズとケチャップ。ある日マヨネーズのキャップが行方不明になり、絶望するマヨネーズのために、ケチャップがキャップの代わりになるものを探すことに。ナスのヘタやシイタケのカサ、ブロッコリーや哺乳瓶のキャップなど見つけてくるけど・・・。
【見どころ】
いろんなフタを試着するマヨネーズ
【ジャンル】
調味料の友情モノ
着せ替えマヨネーズ
「れいぞうこのおくのおく」という前作もあって、そちらもおすすめ。
この冷蔵庫シリーズ、うちの娘の琴線に触れるものがあるらしい。
読んでもらうのも好きだけど、ひとりで黙々と読んでたりもする。
冷蔵庫におなじみの調味料や食品が、シンプルなわかりやすい顔で、おもしろおかしく動いてるのが楽しいのかもしれない。
このゲームのような絵は、大人もみていて楽しめる。
冷蔵室のクローズアップや、ドアポケットにきれいに並ぶドリンクや卵や調味料など、身近な小さな世界をのぞき見るような感じがある。
なんでもない冷蔵庫の風景が、絵になると妙に新鮮。
「ばあちゃんのおなか」かさい まり / 文 よしなが こうたく / 絵 教育画劇
【ざっくりまとめると】
ばあちゃんと仲良しの「こうた」。巨大なクッションみたいなばあちゃんのお腹で遊んだ夏の日々。
【見どころ】
海を走るクジラ島
【ジャンル】
ぽんぽんアドベンチャー
ばあちゃんのお腹は島となりクジラとなり
このはしゃぎすぎの明るい絵とは裏腹に、読んだあと切なさが残る絵本。
元気いっぱいで豪快なおばあちゃんはどこにでもいそうだけど、これほどのお腹のおばあちゃんはなかなかいない。
こういうおばあちゃんは、「こうた」のような気の弱いこどもと相性がいい。
大きなお腹のばあちゃんは、母なる大地とか母なる海そのもので、安心感がすごそう。
海にやってきた「こうた」はばあちゃんのお腹の上で眠り、ばあちゃんが島に、さらにクジラに変わっていく夢をみる。
こんなはっちゃけた夢は、ばあちゃんといなければ見なかっただろう。
ばあちゃんなるものに包まれた瞬間。
「おばけのてんぷら」せな けいこ ポプラ社
【ざっくりまとめると】
ウサギのうさこが山に行くと、友だちのこねこくんがてんぷら弁当を食べていた。分けてもらったイモのてんぷらに感動したうさこは、自分でも作ってみることに。揚げながら食べていると、いい匂いに誘われて、おばけがやってくる。
【見どころ】
メガネのてんぷら
【ジャンル】
おばけクッキング
おばけ危機一髪
初版が1976年のロングセラーで、いまだに多くの書店に置いてある名作絵本。
僕も幼いころに何度も何度も読み返したから、こんなに記憶してる絵本はほかにない。
おばけが出てくるので、怖くて覚えてるという面もある。
でも、怖いもの見たさで何度もみてしまう魅力があって、こどもはけっこうおばけが好き。
僕が読んでた「おばけのてんぷら」はすでに処分されてたので、2年くらいまえに新しく買いなおした。
娘も好きになるかなと様子をみてたところ、3歳をすぎたあたりから読み聞かせをせがまれるようになった。
切り絵で作られた、かわいくて、ちょっと怖い感じがする絵もいいのだけど、文章もすごくいい。
「きょうは やまへ
くさつみに いこう。
サラダに しようかな。
それとも おみおつけが
いいかな・・・・・・・。」引用元:せな けいこ(1976年)「おばけのてんぷら」ポプラ社(2ページ)
くさつみ、サラダ、おみおつけというワードが妙に心地いい。
それから、食いしんぼうのうさこにふさわしい、おいしそうな文章が続く。
うさこのマイペースでスローな性格は、親の心配をよそに、勝手に自由にやってる子供の感じがよく出てる。
放っておけば、うまくいくことも多いんだろうなと、読みながらふと思う。
「ぼくんちカレーライス」つちだ のぶこ 佼成出版社
【ざっくりまとめると】
夜ごはんにカレーライスを食べたくなった「ぼく」。ママと食材を買いに商店街へお出かけ。その行き帰り、会う人会う人が影響されてカレーライスを食べたい気分に。家に帰ってママがカレーを作りはじめると、匂いが町中に広がって・・・。
【見どころ】
夕暮れとカレーの匂いで黄色く染まる町
【ジャンル】
カレーエクスプロージョン
カレーのパワー
日本人は、カレーライスを1人あたり年間に約79回食べてるそう。
全日本カレー工業協同組合、及び日本缶詰びん詰レトルト食品協会が公表している統計から計算しますと、日本人は一年に約79回カレーを食べています。つまり、週に1回以上は何らかの形でカレーを食べていることになります。
カレーライスを嫌いな人はいることはいるけど、確かにほとんどいないんじゃないかという実感がある。
この絵本はカレーライスみんな大好きが大前提。
カレーだからこそできることだ。
とはいえ、つちだのぶこさんの絵がユーモアがあって楽しいので、カレーを食べない子もきっと楽しめる。
じっさい、カレー好きのうちの娘も、カレーライスが出てくるシーンよりも、そこに至るまでのページをじっくり読んでることが多い。
ユニークな登場人物がページのあちこちにいるからだろう。
ところで、カレーライスの絵本って多いけど、すごく食べたくなるのはこの絵本が一番かも。
「ピヨピヨ スーパーマーケット」工藤 ノリコ 佼成出版社
【ざっくりまとめると】
ヒヨコの5兄弟とママにわとりがスーパーマーケットでお買い物。5羽のヒヨコたちはかくれんぼしたり、おやつを好きなだけカゴに入れたり、やり放題。でもレジでママにわとりにつかまって没収。ヒヨコたちにはつまらないトマトやひき肉やバナナや食パンなどで、ママにわとりが作ったものは・・・。
【見どころ】
リアルスーパーに負けない品揃え
【ジャンル】
ショッピングフリーダム
ぐんだんを作った人、工藤ノリコの絵本どんな絵本作家?言わずと知れた、ノラネコぐんだんというスター集団を作ったのが、工藤ノリコさんです。どの書店の絵本コーナーでも、このぐんだんを見かけないことはな[…]
もしスーパーでこどもを解き放ったら
スーパーマーケットが好きな人にはたまらない絵本。
こどもはたいていスーパーが好きだから、この絵本はツボにはまりやすいと思う。
だいたいどこの子供も、買いたいものはほとんど買ってもらえない。
せいぜいおやつが1個か2個。
ヒヨコたちはママにわとりの目を離れると、お菓子類をどっさりカゴに積んでいく。
ほんとにこどもは抑制がきかないもので、うちの娘もお菓子、焼きいも、おもち、唐揚げをみつけると断固としてカゴに入れたがる。
ママにわとりはそんなこどもを5羽も連れてお買い物なのだから、尊敬しかない。
この絵本は工藤ノリコさんならではの、楽しさがたくさん詰まっている、
スーパーの品々をひとつひとつ眺めるだけでも楽しい。
スーパー好きの大人にもおすすめ。
「ちかてつ もぐらごう」大森 裕子 交通新聞社
【ざっくりまとめると】
ちかてつ もぐらごうで「つちのしたツアー」にお出かけ。
駅弁、野菜の収穫体験、化石見学、テーマパークなど、土の下を満喫したあとは・・・。
【見どころ】
逆さま野菜掘り
【ジャンル】
JRもぐら
土中の電車旅
動物たちが乗り物で旅に出るとか、ツアーを楽しむという絵本は、工藤ノリコの「ペンギンきょうだい」シリーズを思い起こさせる。
動物が可愛くて、食べものがおいしそうな点も共通してる。
簡単に比較してみると、工藤ノリコは淡い色合いで、動物たちは2頭身の小太りが多い。
いっぽうの大森裕子はしっかりめの色合いで、3頭身のスリムな動物たちが多い。
そのあたりは好みの問題だろうけど、食べものに関しては、やはり食べもの系の絵本をたくさん出してる大森裕子に軍配があがるかも。
弁当のシーンは動物たちといっしょに、読んでるこちらもテンションがあがる。
サンドイッチのライ麦パン、エビフライ、おいなりさんなんて、完全に食べ物の色だ。
ついでに言うと、野菜掘りに出てくるニンジンもすごい。
スーパーに置いてあるニンジンじゃなく、産直なんかで売られてる濃い色のニンジンだ。
僕はニンジンが好きなので、いい色、いい眺めだと思う。
それにしても、洗練というものから一番遠いところにいるような電車のデザインが地味におもしろい。
笑ってるし。
ホンモノ顔負け、大森裕子の絵本どんな絵本作家さん?図鑑らしい緻密でリアルな絵を描けるいっぽうで、かわいらしい動物のキャラクターも描くことができる作家さんです。写真のような絵と、ゆるいキャラクター[…]
「かぼちゃのすーぷ うまうまううう!」もりなが あけの ニジノ絵本屋
【ざっくりまとめると】
こぶたのミントとはりねずみのバジルが、熱々のかぼちゃスープをどうにか冷まして食べるまで。
【見どころ】
熱そうなかぼちゃスープ
【ジャンル】
スープの冷まし方
こぶたとはりねずみの食レポ
寒い日は、熱々のスープがいちばん。
ちょっと舌をやけどしながら、息を吹きかけて冷ましながら食べるのが、そういう流れもぜんぶ含めておいしい。
子供だとなおさら楽しんでたりする。
うちの娘の場合、早く食べたい気持ちのほうが勝って、そんな余裕はないみたいだけど。
なにか一口パンでも食べて、ちょっとお腹を落ち着かせて、スープに取りかかりたいところ。
この絵本を読んでると、かぼちゃスープが食べたくなる。
「ぼくらはいけのカエル」まつおか たつひで ほるぷ出版
【ざっくりまとめると】
池に棲んでいるカエルたち、モリアオガエル、トノサマガエル、ツチガエル、アカガエル、ウシガエル、アマガエル、シュレーゲルアオガエルを紹介。
日々の生活から、おたまじゃくしの子育てまで。
【見どころ】
舌を使って昆虫ハント
【ジャンル】
川辺生活
カエルのライフスタイル
こどもから大人まで、カエルは好き嫌いが分かれる生き物だと思う。
アマガエルは小さくてかわいいので、比較的、人気があるが、それでも気持ち悪いと言う人は多い。
田舎に住んでいると、まずその鳴き声に驚く。
セミに負けないくらいのやかましさ。
個人的には、車の騒音よりはカエルの鳴き声のほうが断然眠れるけど。
それはともかく、絵本とカエルの相性はいい。
目が離れた顔が、とぼけた感じで、ゆるくていいのかも。
この絵本はカエルの生態を図鑑的に紹介したものだから、どちらかというと写実的。
主役だから、多少かわいらしく、表情豊かに描かれている。
いっぽう、そのほかの虫や小動物はリアルで、池をのぞき見るような気持ちになれる。
この絵本で学んだプチ知識。
おたまじゃくしは天敵が近づくと、集まって大きなかたまりとなって対抗する。
小魚の習性で、おたまじゃくしも同じらしい。
スイミーの戦術。
「天女銭湯」ペク・ヒナ 長谷川 義史 / 訳 ブロンズ新社
【ざっくりまとめると】
「長寿湯」という古い銭湯に通っている母娘。
お母ちゃんが体を洗っているあいだ、娘のドッチが水風呂で遊んでいると、どこからともなくおばあちゃんが現れた。
おばあちゃんは、自分は羽衣をなくした天女だという。
ヤクルトをほしがる天女のばあちゃんのために、ドッチは我慢して熱々のお風呂とアカすりを済ませ、お母ちゃんに買ってもらったヤクルトをプレゼント。
その日の夕方、風邪をひいて熱が出て苦しんでいると、ミニサイズの天女のばあちゃんが枕元にあらわれ・・・。
【見どころ】
精巧な人形と小物たち
【ジャンル】
リアル人形劇
昔は美女だった?天女のばあちゃん
本物の銭湯を舞台に、大量の人形を作って撮影された絵本。
まず、いきなり受付のおじいちゃんがすごい。
とてもリアルな人形ながら、大胆なデフォルメで、はっきり言って顔が崩れているのだけど、この人ぜったいいると思わせるところがある。
おじいちゃんに対峙する母娘のインパクトも負けてない。
この見開き1ページに凄みがあり、一気に絵本の世界に引きこまれることになる。
これだけ個性のある人形なら、ふつうに銭湯に入ってヤクルト飲んで帰る、みたいな話でも通用しそうだけど、天女のばあちゃんという、またとんでもなくユニークなのがあらわれる。
念のために説明しておくと、天女というのは天の世界に住む女神のことで、羽衣で空を飛ぶといわれる。
天女といえば、美女のことでもある。
ところが天女のばあちゃんは、なんというか、ものすごい顔をしている。受付のおじいちゃんを凌駕するくらい。
羽衣伝説では、天女が羽衣をなくして天に帰れなくなり、人間の男と結婚したという話がある。
この天女のばあちゃんも羽衣をなくし、そのせいで人間界にいるらしい。
昔は人間の男とそういうこともあったかもしれない。
それも過去の話で、今は人のよさそうなおばあちゃんに落ち着き、こどもと遊ぶのが何よりも楽しみ、ということかも。
インパクトのある天女のばあちゃんだが、主役は少女のドッチ。
知っている話を聞いてあげたり、大好きなヤクルトをゆずってあげたり、天女と交流できる素養あり。
「まんぷくよこちょう」なかざわ くみこ 文溪堂
【ざっくりまとめると】
「たあちゃん」はおじいちゃんと「まんぷく横丁」へお出かけ。29日はまんぷく横丁のふくのいち。
焼き鳥や惣菜を買って、食べ物だらけの商店街をぶら歩き。
おじいちゃんが薬を買いにいくあいだ、「たあちゃん」が一人で「まんぷくさま」を参っていると、小さなタヌキたちがあらわれ・・・。
【見どころ】
お店がいっぱいのワクワクする商店街
【ジャンル】
商店街アドベンチャー
アミューズメント商店街
大型ショッピングセンターやインターネットのせいか、最近ではあまり見かけなくなった、大繁盛の商店街。
いつの時代か、というような光景だけど、東京・武蔵野の「ハーモニカ横丁」という実在の商店街(2012年取材)がモデルとなっている。
商店街もここまで賑わうと、もはやレジャーランドのようなものだ。
買い物好きのこどももたっぷり楽しめる。
こういう商店街が近所にあったら通うのに、と思うけど、まあ実現は難しいだろう。
そこそこ店が残っている商店街でも、さびしさがただよう。
でも、この絵本のような商店街なら、最近のおしゃれできれいな大型ショッピングセンターとは違う魅力で、集客できるような気がする。
そのためには、地域の人たちがみんな、買い物するならスーパーじゃなくて商店街のお店で、というような結束が必要になるかもしれない。
さびれたお店を一軒でも出さないことが重要だからだ。
この絵本は、商店街を復興させるヒントが詰まってるような気がする。
何も考えずに読むだけでも楽しいけど。
「みち」さいとう しのぶ ひさかたチャイルド
【ざっくりまとめると】
「はるちゃん」が木の枝で地面に線をひいて道を作っていると、道が勝手にどんどんのびていってしまう。
追いかけていくと、「ぶらさがりパンや」や「ふんすいジュースや」、ワニのいる川、すべり台のある温泉があらわれる。
【見どころ】
おもちゃのお金で買えるパンやジュース
【ジャンル】
空想ごっこ
道が逃げる
こどもはいろんな遊び方をするものだけど、空想遊びは、大人にとってかなり楽な部類に入る。
勝手に世界を作りあげていくので、こちらはほとんど何もしなくていい。
これまでの短い人生で得てきた経験を総動員して、生真面目に遊んでいる姿はなかなか見応えがある。
その子にとってのトレンドもよくわかる。
うちの4歳の娘の場合、最近はサメがよく出てくる。
レジャーシートを海に見立てて、「サメがいるので海には入りません」とか言ってる。
思えば、空想って不思議な行為だ。
人間特有のものだし(たぶん)、いくつになっても思うようにやめられないものでもある。
きっと、何かしら脳に必要なものなのだろう。
こどものうちに、大いに鍛えておくべき能力なのかも。
「ぽかぽかぐ〜ん」角野 栄子 / 作 よしむら めぐ / 絵 小学館
【ざっくりまとめると】
天気のいい日、アコちゃんはTシャツに着替えて「ぽかぽか、ぐ〜ん」と背伸び。すると大きくなった。トラトラちゃん、クマちゃん、猫のミミ、たんぽぽ、いもむし、石ころも背伸び。家も電信柱も木も、みんな背伸びして、ぐ〜んと伸びる。
【見どころ】
世界が伸びをしたらこんな感じ
【ジャンル】
伸縮ストレッチ
チーズみたいに伸びる世界
注目は『まめざらちゃん』ですてきな絵を描いていた、よしむらめぐ。
この絵本でも、すごくいい絵を描いている。
重心がしっかりしていて、バランスのとれた絵。ジブリみたいに、動きをよく観察した絵だと思う。
みんなが伸びをするだけの、なんてことない話だけど、動物や虫、植物、家、電信柱が伸びをするのが気持ちがいい。
まあ、猫はあたり前によく伸びをするけど。
常に重力にさらされている体は、放っておくと歪みができてしまう。
伸びをすることで、歪みをなおし、圧迫された内臓や気道をほぐすことができる。
伸びは人体に必要な行為なので、気持ちいいと感じるようにできているのだろう。
世界もときどきこうやって伸びをして、ほぐすことができればいいのにと思う。
でももしかしたら、人や猫の伸びにあたるものが、世界にはもともと備わっているかもしれない。
トマもぐイラストレーターと絵本作家、どう違うんだろ?絵(図像)を描くという点はいっしょですが、仕事内容は全然ちがいます。基本的に、イラストは一枚もの、絵本は続きもの。ケチャもぐこの違い、かなり[…]